こうして、閑散としたスラム零番街の強盗騒ぎはお開きとなった。
三匹は隅にまとめて、どう送り返すか考えながらソウシに見張らせ、
ひとまずはゴールデンバットと機材たちをしまいにかかる。
それぞれ志斗とりゅーが、その役についた。
「まったく、子供の遊びにこんな機械か、勿体ない」
「あー、はいはいそれ今のアンタに言えたことな訳ねごめん悪かった」
救助して早々軽口を叩く志斗に、りゅーは袋の中から手頃なものを投げつけてやり、黙らせる。
今投げたものを除けば、袋一杯に詰められた機材はだいぶ重さがあり、
早々にこの体で荷物を請け負ったのを後悔したが、
ふと、彼女の頭に疑問が浮かぶ。
目分量であるにしてもジャスタスの体重を58kgと見積もったとして、機材は確実にそれ以上の重さがあるはずだ。
それをえんまが持って運ばせたとき、先程のドアが壊れてはしまわないのだろうか?
…もし、先程のジャスタスの言葉が正しければ、の話だが。
嫌な予感を、ガシャンと音が裏付ける。
ロボットをいじりたがったか、志斗が機を降りて自室の道具箱に近寄った際だ。
甘く見ていたチューヅが不意を突き、続いてえんまがハンマーを振った。
ソウシは志斗を守ることを優先し、ふたりは無傷に済んだが、そのかわり強盗が逃げ出している。
えんまの長い腕が、りゅーの手から袋をひったくった。
「狼月さん!」
「わかっている!」
りゅーは全速力で後を追った。
めざすはゴールデンバット。チューヅ、えんまと乗り込んでいき、
最後に嫌な笑みで振りかえったジャスタスが、
「貴様、恩をかけてやれば、嘘だったか!」
「重さに耐えきれない『可能性』としか言ってないからな!」
がつんとドアの根元を蹴ると、彼の狙い通り。
蝶番をゆるめておいたそれは外れる。
穴空きになりつつも、嘲笑うようにゴールデンバットがりゅーを見降ろした。
『ひゃははは、ばーかばーか!結局無駄ボーンだったな!』
室内のソウシ達からは、垂直飛行で逃げていく巨大ヴォルグの姿がちょうど消え去ったところだった。
りゅーが出口から曇天の空を仰いでいる。
「…使えねー奴らー」
「志斗さんひとりだったら研究所まるっと盗まれた上に大ケガだったでしょ?」
ソウシの下敷きのまま、志斗は「あなどってくれるじゃないの」と呟く。
まぁ、なんにせよ、泣いていたことは事実だから、彼は気持ちの整理がつき次第、感謝すべきだ。
「来い!」
唐突に、りゅーが呼んだ。
彼女は外に出、ゴールデンバットが置いていったドアを頭に掲げる妙な格好をしている。
「…野犬何やってんの?」
「貴様の家だ、崩れる!」
へ?と言ったのは志斗。気配を察知して、手を引いたのはソウシ。
数メートル走ると、志斗の耳にも届く大きさで、遠ざかっているはずのジェットの音が近づいてきた。
それも、真上から。
『悪ぃな、失敗しちまったからよ!機材は研究所ごともらってくぜェ!』
凶悪ぶったチューヅの声が、酷な結論を宣言する。
壁に大きなヒビが入る。ただでさえ崩れかかっていた家屋が、上から持ち上がり、土から外れていく。
運搬用のワイヤーが壁を抜けた。
ソウシと志斗が外に出た後を、落ちる天井の破片が追っていく。
『あばよ!』
三人はドアの下に伏せ、落ちるコンクリートと粉塵から身を守っていた。
その真上を、巨大なヴォルグと志斗の家が、飛び去って行った。
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