そのころ、ゴールデンバットの中では、りゅーが予想外の苦戦を強いられていた。
彼女の強さを保持する「核」は、幼い体の中でも健在であったが、
小さい体というハンディ、そして何より、ひ弱な肩では愛刀・斬影を持ち上げられない。
これが立って向き合っていれば別だが、
えんまが操縦席に座り、狼月を捕らえやすくなっているのも不利だった。
スピードを生かしてかわしても、胴体をつかまえられては逃げられない。
「狼月さんは、てごたえのある相手じゃないと、おもしろくもなんともないんだよね」
「…そんなことも言ったな」
ずん、と機体が大きく揺れ、りゅーの隣にハンマーの質量が出現した。
自分が大人である時と同じ前提で行動されることについて
尊敬の表れなら、ありがとうのひとつも言いたいところだろうが
りゅーにしてみれば、生きるか死ぬかの大問題だ。
何キロあるのだか、こんな魔力の塊が直撃したら、子供の体はぺしゃんこ間違いない。
りゅーの指先が、ナイフの柄を握り直す。実際、斬ることも考えねばなるまい。
えんまなら、思い切りやっても「大怪我」で済むだろう。
友人を手負いにする覚悟をりゅーがつけると、ハンマーが持ち上がり、再び機体が傾いた。
「うわあああああああっ!」
大声を上げ、上から鉄の塊がりゅーを襲う…襲う。
(うえ、だと?)
りゅーが最後に見たのは、左手でハンマーを横振りにするえんまの姿だ。
ただ一瞬で上からの攻撃に転じられる訳が無い。
それに、りゅーはまだ、硬質の塊の下で意識を持っている。
男の、うめき声。
「機体のバランス悪いんだからハンマー出すなって言っただろ…!」
「ご、ごめん!まさか、ジャスタスさんがうえにいたなんて、おもわなくって」
落ちてきたのは、剥がれた外装、そして内部に侵入を試みていたジャスタスのようだった。
床の上でドリルががたがたと震えているのを、金属板の隙間から見やり、
咄嗟にそれを抱え、構えた。
蹲っていたジャスタスと、えんまの視線が、りゅーに注ぐ。
「降伏しろ!
さもなくばこいつをコントロールパネルに突っ込むぞ」
りゅーはチャンスを逃さなかった。
自分の身も先の事もを顧みず向かってくるのがえんまの恐ろしさだとすれば
ジャスタスの考え方は、ちょうど良いブレーキとして働く。
現に彼は苦々しげにりゅーを睨んだ後、えんまにハンマーをしまうよう指示した。
「外に出ろ。扉は開け放したままだ」
ふたりは唸るドリルを背に大人しく従い、無事、もう夜気となった風が機内に吹きこむ。
えんまの重さに扉が耐えきれない可能性があるとかで、ジャスタスが手をとって彼を飛び降りさせてやっている最中
りゅーが前方に目をやると、チューヅを首根っこからつかんでピースをするソウシの笑顔があった。
相変わらず相方は、小さい動物の持ち方を知らない。
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