爆風を肩で割って前に出ると、たちこむ煙の中で背後を取ったチューヅの鞭に
足首を巻かれた。半歩下がって振り向くと、胸倉を掴んで殴りかかろうとしてくる。
膝ではねのけないところだが、片足になるわけにいかない。
柄で胸を突いて時間を稼ぎ、左手で腕を振り回すチューヅの頭を押しのけた。
それでも敵はわめき続けるばかりだ。
「落ち、着いて下さい、よっ!」
至近距離からの/coldbleathを吹きつけてやって、
ようやっと降り注ぐ怒号が止む。
ソウシは冷たくひえた刃をいつでも付きつけられるように右手に構え
チューヅを見据えた。
「僕があなたの大事な誰かを傷つけたのならば、償うべきでしょう
…だけど、何を償えばいいのかもわからず謝るわけにはいきません」
「ああそうだ、俺の何より大事な俺様を傷つけたっつーの!
何にもわかってねぇんだな!」
「僕はあなたの名前すらしりません」
「…ほんっっとに覚えてねーのか?」
マスクとソウシの距離がぐっと近づき、フィルターを通した呼気が頬を撫でる。
こんなにも特徴的な外見(顔は見えない)をした男に覚えが無いのは不思議だが、
ガスマスクを着けている男がいるとすれば、空気の悪いスラムの奥か、怪物の森の沼地付近か。
「怪物の森で会ってんだろ。ジャワが暴れた時だよ…」
本来は島モンスターであるはずのジャワがWGPとの境で暴れた時
確かにソウシは駆り出されていた。
あの時は、ジャワが賞金首だったこともあり、ハンターが大勢居すぎたから
場に誰が居たのかは把握できていない。
ただ覚えているのは、
「僕が首を刎ねた彼ですか。」
然るべき警告の後、領域侵犯により処刑したことだ。
熱くなったチューヅは、ソウシから手を離して拳を握る。
「てめぇがあのジャワを斬れたのは、俺が注意を引いてたからだ。
もうちっとで俺がとどめを刺せたんだ。てめぇがしゃしゃってこなけりゃあな!
しかも、その時なんて言ったか、覚えてっか?」
ジャワの頭上に、緑の影が舞った。
暴れる蜘蛛の目の前を、目ざわりに跳ね回る小さなハンター。
雷を構える緑を見上げ、ジャワの胸と胴の間の外殻に、割れ目が見える。
「…言いましたね、『どいてください』と。」
叫び。太陽を反射する刃。
チューヅはいきりたった。
「『邪魔です、囮さん』だバッキャロー!!」
これでやっと合点がいった。
彼が頑張ったところで、とどめを刺せたとはとうてい思えないが、
ソウシの気付かないところで、こういう勘違いは偶に起こる。
「バーカ!ターコ!俺の活躍を横取りしやがって!
誰が囮だってんだよ!誰が邪魔だってんだよ!
ちょっと強ぇからっていい気になりやがってチクショー!」
頭に血が上ってか、ぽかぽかと腕を振り回すと、でたらめに鞭が周囲の地面を叩く。
こういった相手に、咄嗟の時だったからといっても通用しない。
ソウシだって大人だ。溜息ひとつ。気を和らげるような、笑顔をひとつ。
魔法を使う頭のないうちに手の甲を返せば、相手は簡単に丸腰にすることができた。
「…そういうつもりじゃあ、無かったんですけどね」
武器を落とした相手の、首根っこをひっつかんで裏返すと、
足を突かせない高さでボール箱に押し付け、動きを封じた。
真剣さを伝えるには、目を見るのが一番。
「だけど、傷ついたなら謝ります。
ごめんなさい。」
ね?と覗きこめば、「うるせー!」と返ってきた。
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