12. vs スラム零番街
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「いや、怪しいもんじゃねぇから楽にしてくれや」
オイラんち見つけるような人はもれなく怪しいですと、言えればどれだけ良かっただろう。
だが、弱冠12歳の天才科学者、志斗の唇はつぐむ以外に動こうとせず
彼は机の上に腰かけるガスマスクのハナアルキをじっと見つめるばかりだった。
お供でやってきた身の丈の何mかというオーガと、ピグミークローンの坊さんのことは知らなかったが
そのハナアルキだけは、志斗の知っている男だった。
夏祭りで開いた花火屋に、一番に駆け込んできた客だ。
注文した文字花火の図柄が『世界征服』だった時に、気づいておくべきだったのだ。
以前狼月が遭遇した、ロボット事件の、主犯だと。
もしかしてここでバラされて、御経を読んで、ざっくり深く埋め立てられたりでもするのだろうか。
『偉大なる科学者ここに眠る』という墓標は、立ててもらえるのだろうか。
生きた心地もせず、いつもの座りなれた椅子に座り、机を置いて包囲されて、彼はただ冷や汗をかく。
「夏祭りの花火じゃ世話んなったな」
「あーはい何か不具合?参った参ったオイラ腕に自信はあったんだけどな
弘法だって川流れっていうしそういうことも100年に一度くらいはあってもいいデスヨネ
ともかく出来がご不満なら直しますけどとりあえずお客さんてことでお茶でも」
「まあまあ、おちついてはなしをききなよ。」
立ち上がろうとした志斗の肩を、えんまが両手で押し戻す。
のんびりとした口調は本来和みをさそうものだが、
肩を握りつぶさんばかりに掴まえられてはリラックスどころではない。
まして、目の前に武器を突きつけられていてはなおさらだ。
「花火は見事なもんだったぜぇ…惚れぼれするくれぇによ。
だから、てめぇの腕を見込んできた」
後ずさる志斗。しかしえんまが邪魔で動くに動けない。
「このメモのやつを全部ぶんどりに来た。殆ど持ってんだろ、無けりゃぁ作れ。
金が欲しけりゃ置いてくが、できる限りまけろよな!」
顔をそむけた先に、視界がすべて白くなるほど近くに長いメモ用紙のようなものが差し出される。
受け取って目を通すと、そこには法律を破る気でなければ欲しがらないような品物がずらり。
「な、」と志斗が口にしかけたところで、机の上には大きなずた袋一杯のddらしきものが置かれる。
本気なのだろうか。
世界征服なんていう言葉を本気で現実にする気なのだろうか。
テロリストに加担してお縄になんかなりたくない志斗は、なんとかして動く口だけでの抵抗を試みる。
「は、はは、お兄さんたち冗談キツいねー!
まさかオイラみたいな餓鬼がこんなタイソーなもん持ってるワケ…」
「自分がどういう状況にあるか解ってるのか志斗31歳」
坊主がはじめて口を開いた。
志斗はどことなく、乱暴さの薄い彼のほうに悪意を感じていたが
その予感はただしかったようで、その『状況』なるものを改めて認識させる。
(バ、バレてますし…!)
というのも、目の前にチューヅの頭越しに、巨大な鋼鉄製のヴォルグが、
そのキャノンになった鼻先を志斗に見せびらかしているのだ。
体の色はきらびやかな金メッキに塗装されている。
まさか、これで黄金バットとでもいう気なのだろか。
「コイツぁ俺の作った巨大ロボ、名づけてゴールデンバットってんだ。
へへ、すげぇだろ。この俺様がてめぇの腕を認めたんだぜぇ?」
思っていると、チューヅが本当にそう言ったので、志斗は心底泣きたいと思った。
「…わ、わかったよぅ…」
「ひゃはは!急げよぉ!
怪しい動きしやがったら家ごとドカンだからな!」
チューヅの指示でようやく立ち上がることのできた志斗は、ふらふらと物置へと歩みだす。
(野犬様マジ気づいてくんなきゃオイラ恨むからねええええ!)
願わくば、この一部始終を『彼女』が見ていてくれていますように。
志斗は必至で念じていたのだが、部屋の片隅のカーテンの中からは、何の音もしない。
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