10. vs 颯路

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夜風をきって飛ぶ。
どこか青みがかった雲と雲の山間に舞い上がってみても
飛行能力の保持者が少ないリヴリーアイランドの空の上は
誰一人いなくて、おじょうは本当に孤独になる。

「寂しくなんかないよーだ。」

強がって言った独り言に、

「そうだ。てめぇにゃ俺がついてっからなあ。」

あるはずの無い返事が応え、おじょうは身を翻した。



おじょうが飛んでいって四十分が経過した。
戻ってきたミラが、街中には見当たらなかったと実りの無さを伝える。
今頃は狼月とソウシが高いところを探しに行っているはずだ。
ピロロはおじょうと別れたベンチで帰りを待っていた。
眠っていろなどとも言われたが、そんなことができる彼女ではない。

「…ミラ姐。」

「なに。」

ミラは襟刳りを直し、関西弁特有のイントネーションで振り向く。

「おじょうちゃん、悩んでた…ばぁばに捨てられた、って言ってさ…」

ピロロの口調は決して弱弱しいものではなかった。
確認するように問いかける。

「うちは両親とか飼い主とか、そういうのあんまり無いけど、さ。
 自分に聞いても、どうしてもわかんないんだよ、ねぇミラさん、
 家族って、こんなに簡単にバラバラになっちゃうものなのかな。」

「さぁなあ。」

もうきっと答えの出ているのであろう、けれど背中を押して欲しい。
そんな気持ちを汲んで、ミラは少し知らんふりをした。
ミラが口にすべき答えはピロロの目にしっかりと映っているだろう。
努めて客観的に、彼女は言う。

「けど思うのはな。
 一度結んでしもた絆いうのはなぁ、どんな名刀にも斬れへんものやねんで。」

ピロロは、何か遠いものに想いを馳せたようだった。
胸を拳に握りしめて、そっか、と呟く。

「ありがとっ。元気、出てきた!」

そしてミラを残して駆け出してゆく。