「落ち着け。落ち着いて俺と同じランゲージを喋るんだ。オーケー?」
コバルトは両掌を広げて擦り寄ってこようとするドルテを制すと
ふぅと呼吸をひとつ。脚を組み直し、興味を示したように瞬いた。
叱られたアオイト達が、果たしてどんなものが”管轄の仕事”なのかと興味津津に取り囲む中でのスピーチだったが、ドルテはアルゴルを親戚に持つ蜘蛛だ。大勢の謁見者が居る環境には慣れていた。
「Youのテリトリーを通ってGLLにLivlyを運びたいノ。」
無論、大勢の中でバカをやることにも。
「…え?」
アオイトの中の一人だろう、誰かが言った。
後ろに居たふたりのオニヤンマも、聞いていないとばかりに顔を見合わせる。
「リヴリーを連れてくるって?」
「トンボのテリトリーに?」
アンタの知り合いはどうなっているんだと言わんばかりの視線をフランベルグが送ると
ウチは知らんぞとパオロが肩を竦める。
コバルトが言った。
「ガッデム。」
それでもドルテは空気を読まず、
「ソ。WGPからの地下道は、Dragonflyの非戦闘区に出るデショ。
そこをチョットだけ歩イテ、WGPクラシックの戦闘区域に出ゆダケ。
1minuteもかからないケド、イチヨ、許可とっといたほうがgoodデショ?」
「…無理だ。」
呆れ果てたのやら、口も閉じずに顔を顰めているコバルトを見かね、
同じく険しい表情のフランベルグが代わって答えた。
「多種族が自由に行き来していいのは、戦闘区域だけと決まっている。
許可を取ろうとしただけまだ良いが…
それは、スズメバチの巣の上を通っていいかと尋ねているようなものなんだぞ。」
「でもa little ダヨ?」
「少しでもだ。
信用できるリヴリーでも、ハンターに情報を漏らさないとも限らない。
彼らにその気がなくても追跡されているかもしれない。
テリトリー侵犯は、貴方が思っているよりデリケートな問題だしな…
…撃退するのは造作が無いが、そんな面倒は背負いこみたくない。
ここ以外のルートは無いのか。入国手当的なものとか…。」
「そりゃフラン、GLLは本来、日本円でパスポートを買って入るもんじゃき。
ドルテ嬢、協力者はリヴリーなんじゃろ。
ニンゲンに頼んでマトモに入ればいいちや。」
パオロの案は、より建設的だ。
二匹のオニヤンマは、リヴリーへの理解があることでも有名だったが
それ以前にアオイトトンボの群れを束ねる責任者でもある立場を十分弁えていた。
フランベルグとパオロが反対意見に回ったのを察し、ドルテは玉座の後ろに隠れて頬を膨らませる。
「ソンナノ、ニンゲンが許すワケnothingダヨ!
ダッテそのLivlysは、GLLキャッスルを乗取るタメに入るんダモン。」
「…お前、そりゃ、クーデターじゃねーか!」
それに弾かれたように反応したのがコバルトだ。
今まで厳めしく座っていたのが嘘のように背もたれの後ろ側を覗き込む。
急に身を乗り出してきたコバルトに驚き、ドルテはウワァと尻もちをついた。
恰好はつかなかったが、あわてて身を起こして声を張り上げる。
「Just a kiddingダケドナ!」
返ってきたのは、馬鹿にしたような嘲り笑いだ。
「きでんぐ?…お前、おふざけでクーデターができるとでも思ってんのか?」
「ミンナはそう思てないみたいケド、アタシは思テル。」
「下らねぇな!」
「ソレは、油断とドウ違うカ?」
異様なくらいギラついているゴーグル越しの目に臆しながらも、ドルテもあくまで食い下がった。
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