起き抜けに激しく動いたせいで、全身の眠気は嘘のように引いていた。
ひざ下までは浅瀬に浸かって横に立っている幼い息子の羽が濡れないように肩車をしてやった。
五匹という大人数が相手では、自慢の息子も大層苦戦したらしく、
助けを呼びに来た時と同じように下唇は噛み締められたままだ。
泣かなかったな。偉いぞ。彼は小さく鼻歌を歌いながら歩く。
からりと晴れた、申し分のない朝である。
憂鬱な気分な突き落とされたくないのならば、水の底で果てている者達に目をやらない方が懸命だ。
ばさり、と目の前にピンクの何かが飛びだして、肩の上で若がうわっと声を上げた。
グリフォンが身構えると、堪えきれないと言わんばかりの笑い声を立てながら
倒れた支柱の影から、一匹のジョロウグモの少女が、改めてゆっくりと顔を出した。
鉛で作ったような肢体を艶めかしく幹に馬乗りにさせ、クスクス笑っている。
身には何も纏っておらず、見事な肉体を露わにしている。
「ハァイ」
少し首を傾いで、彼女は軽く手を振った。
すると、その脇からひょこりと、グリフォンの愛娘、デイモスのアレスも姿を現す。
どうやらずっと蜘蛛につきそっていたらしかった。
「若。WGPクラシックに抜ける道。」
ひざ丈の、動くに適さないドレスを彼女は払おうともしない。
短い芝をくっつけた薄いピンクの髪は無表情な頬に何の動きも添えることは無く、
淡々と自分の出てきた場所を指す。
それを見て若が「あっ」と声を上げた。
「酷いそれ言わない約束」
「言、てない。」
「言ってなくても、通ってきたんじゃ、教えたのと一緒だよ!」
全く気付かなかった新事実に、デイモスは額含め計3つの目を大きく見開いた。
デイモスが、恐らくGLLの中から蜘蛛を案内して通ってきた道は
若が元いたクラシックから移ってきたときに使った、今は秘密基地的な役割を果たしていたものだ。
茫然と突っ立つ娘の傍らで、
蜘蛛の少女は、頬を真っ赤に膨らませた若を面白がって
ワカッチャッタワカッチャッタと囃し立てながら、くるくると若の回りを踊りまわる。
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