13. vs WGP&WGPクラシック

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「君はバスチアンさんの姪子さんか。」

グリフォンが声をかけると、蜘蛛の娘はぴたと踊りを中断し、まっすぐ彼を見た。

「Yeah。ケド、アイツ嫌い。ドルテチャン、森居るとブ殺されちゃうのカラ。」

彼女のドルテだと容易に知れたのは、
水の生える、朽ちた煉瓦の向こうから、細々と群生する葦に紛れて一対の目が覗いていることに気づいたからだ。
驚くほど巧みに風景に溶け込んでいるせいではっきりと正体が掴めないが、
モンスターの中で擬態能力を持つのは蟷螂だけである。
アルゴルの姪っ子の問題児といえば、名無しといえどそれなりに知名度は高い。
彼女に監視役が付いているのはさほど珍しいことではなくて、
誰が差し向けているかということも周知の事実だ。
だが、彼女のテリトリーの主であるバスチアンが、
何故病的なまでにこの娘を恐れるのかが、グリフォンには全く理解できない。

「そうか。…ところで、どうしてこの通路のことを?」

「ドルテチャンが通りたいからダヨ。悪イ?」

「いや。ただウォーターグリフォンとして、この界隈の出来事には関心があるのでね。
 この通路を使うのならば、話せるね。私には君を止める権利があるのだよ」

ドルテは難しい顔を作った後、にんまりと悪どい笑みを浮かべてみせ

「ドルテチャンのヒミツ計画!GLLキャッスルを、征服すゆ!」

「征服!!」

アレスまで真似をしてガッツを掲げる。
後で少し言って聞かせる必要があるかなと頬をかき、

「…征服?というのは?」

「Livlyの王様、アタシが女王サマ。
 セーフクは、ドルテチャンがLivly islandを、じぇーんぶ好きにすゆ!」

ああ、子供の遊びか。
リアリティの欠如した回答に、グリフォンはそう納得した。
ならば別に、通路くらい使わせてやっても良いだろう。
若やアレスがもぐりこむのと同様、友達がひとり増えただけの話だ。
彼は笑って、わざと厳めしいモンスターの長の顔を作る。

「はは、そうかね。だが、私の領地までは残しておいてくれよ。
 いくら女王様でもWGPまで支配されては、私の顔が無いからね。」

「Okay!何デモ all rightダヨ。
 ダッテ、ドルテチャンが全部決めゆんダモン」

野心。傲慢。狡猾。

おどけながらも、少女の瞳の中に残忍な気配が宿っているのには、
少なからずの不安を覚える。
知らず知らずのうちに見習っていたのだろうか、顎を上げて言い切る癖がバスチアンそっくりだ。
自分の言うことが絶対だと言わんばかりの自信は、グリフォンの背筋に嫌なものを流しこむ。

(…もしかするなら)

楽しさだけに身を任せてリヴリーなどと戯れている、
この娘は、アルゴルに変化する素質を持っているのだろうか?
ウォーターグリフォンは、しゃがみ込ん、嫌がる若の頭を抱き締めるドルテに目をやる。
蜘蛛の子供は発育が早いらしく、
果実のように丸く張った乳房は以前見かけた時よりも柔らかさを増しているように見える。

「駄目だめ。恐怖心は猫を殺します。」

きっとあの蟷螂の少年だろう。
誰かが後ろで囁いた。
振り向くが、かさりと葦が揺れたのが見えたきり、視線も擬態の影も、もう消えていた。

彼女はいずれ大人になる。
そうして、何時までも無邪気に遊んでいられる訳ではないと知るだろう。
今に別れを告げて、一匹の巨大な怪物に戻らなければならない日が、必ずやってくる。

ウォーターグリフォンには、彼女ができる限り長く、あどけないままで居られるように祈ることしか出来ない。