13. vs WGP&WGPクラシック

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アレスと若に教えてもらった抜け穴から、ドルテの頭が顔を出す。

眼前に広がるのは、抜け穴の入口があったウォーターグリフォンパークとほぼ同じ光景である。
しかし、よく見ればそれぞれの彫像はぴかぴかだし、柱も倒れてはいない。これは荒廃以前、栄光の時代のままのウォーターグリフォンパーク。
GLLの中にある、WGPクラシックだ。

(土クサイ。)
ドルテは鼻を空に向けると、空気の香りを追っていく。
トンボ族の乾いた翅の匂いは、まさに彼らの飛び方のように直線的なルートを描いて風に混じっている。
あっちにふらり、こっちにゆらり、戦いの舞台となる貯水池を乗り越え、
芝生のさらに奥に茂る腰よりも高いミズアシの中に
体を屈めて進んでいくと、ある地点で唐突に周りが無臭になった。

匂いが水に溶けている。
最後のアシをかきわけた先には、大きな自然の湖が広がっていた。

ここがタガメ一族に代わって支配者となった、トンボ族の拠点だ。
季節的に島渡りの時期ではないため、ヤゴたちが澄んだ水のところどころに浮かぶ水草にじゃれて笑い声をたてている。

「Paolo!」

まるで楽園のような景色の中には、鮮やかな黄色と黒を身にまとったトンボ族の首領、オニヤンマの姿もちらほら見受けられた。
その中に覚えのある顔を認め、ドルテは一目散に駆け寄っていく。
パオロと呼ばれた年配のオニヤンマは自分を呼ぶ声にすぐさま振り向き、
破顔一笑すると、もう一匹の同僚と話し込んでいたにも関わらず
飛びついてきたドルテを正面から受け止めた。

「Paolo!Ohh, I missed you so much!」

「ハハハ、嬢ちゃんよう来たな!
梅雨の大祭の時以来かぁ?どうれ、またええ女になりおったようじゃのう!」

女盛りを迎えた瑞々しいメスの体を掴むのは、
同族の間でも(食べられるからとかそういった理由もあるらしいが)
なかなか躊躇われることであるが、パオロは親しみをこめて、しかも嫌らしさを残さず
ドルテの肩や腰を抱きしめた。
それが壮年のオニヤンマの余裕であり、彼の伊達男と噂される所以でもある。

「普段はおらんところを、
 若い衆が秋のアニバーサリーとかはしゃいじょるき、
 久々に里帰りしおったんじゃ。
 いやぁ、久々に戻るとええこともあるもんよのう、フラン!」

「…あー、と、とりあえず何でこの子は裸なんだ」

感動の再会のその横で、もう一匹のオニヤンマが困惑気味につぶやく。
トンボの首領としてはずいぶんと若く、ドルテよりも年下にさえ見える男だったが、
がっしりした体格を包む鮮やかな黄色は間違いなくオニヤンマの証だった。
彼の水辺の植物のように少し荒れたツンツンの短髪は黒々とし、長い翅はまるで刀身のようだ。
放っておくと際限なくヒいていく青年に
パオロはおお!と声を上げ、豊かな黒髪を揺らしてもう一度笑った。

「まぁまぁ、細けぇことはどうでもええちや。すぐ見慣れるきに。
ドルテ嬢!こいつはフランベルグちゅう奴じゃ。
こう見えて若い衆ん中でもいっとうより抜きのやり手でのう」

Hi、Flamberg!物おじせずにドルテが挨拶すると、
フランベルグは明るい緑の目をぐりぐりとそらしながら
全てにおいて決まり悪そうに応じる。

「またの名をツヴァイヘンダーと…
……と、あんまりハードル上げないで貰えると助かるんだがパオロさん」

「何を言うちょる。レディの前じゃき、ちっと見栄張るくらいが丁度ええちや。
それに、坊のはただの見栄と違うて正真正銘のホンモノじゃきに。
堂々としてりゃあええ!」

パオロが滔々と褒めるのを聞いて、ドルテは手を打った。

「ジャア、FlambergがオニヤンマのBossノ?」

「んー…まぁ、一応現首領補佐とかいう立場ではある。一応。正直面倒だが」

フランベルグはあまり野心的な性質ではないらしく一瞬は否定しかけたが
本当のことを告げるべきと察したか、ためらいがちに自分の立場を伝えた。
ドルテが肩を落とすのを見て、彼は口をへの字に曲げるが、残念ながらドルテの目的に、補佐では少々力不足だ。

「By the way,アタシ、WGP ClassicのBossにネゴシエイトしに来たダヨ!」

アオイトトンボとヤゴたちの首領がオニヤンマ、
そのオニヤンマを纏める大首領にあたる相手が、WGPクラシックの主人である。
それがフランベルグでないとするならば、今季のトンボたちを纏めているのは誰なのだろう。
かくかくしかじか、ドルテが簡単に目的を告げると、
二匹のオニヤンマはそろって顔を見合わせた。

「そいつぁ、ウチらじゃ話が通せんな」

「それじゃあ、アイツだな」