07. vs 幸江

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午後3時を過ぎて、ようやくジャスタスはやってきた。

天丼を奢るから餌屋で待っていろ。
それ以外に何も知らされないまま呼びつけられたリラは
不機嫌そうにバッタをつまみながら、遅い、と愚痴る。
市場の近くに位置する、個人経営の餌屋は昼のラッシュもとうに終わり、
食べている客より喋っている客のほうが多いくらいだ。
ジャスタスはぶーぶー言っているリラを適当にあしらい、
外のよく見える窓際の席に移動してから
荷物をどん、とテーブルに置いて、こう切り出した。

「君にこれをやろうかと思ったが、どうせ飲めないんだろう。」

「…はぁ?」

呆れるリラの目の前で、ジャスタスは次に
縦横30センチ四方はあるその箱の中から一本取り出してみせる。
真っ直ぐなコップに蓋のついた形。透明な液体が入っている。ワンカ○プ大関だ。

「酒だよ。たくさんあるんだが、どうせ飲めないんだろう。
 別に飲まなくていいぞ。思い直した。持って帰る。」

無気力に言い放ち、席を立とうとする。
どうせ、別に、をやたら強調する彼の言葉が
酷く神経に障り、リラは彼の服の裾を鷲掴んだ。

「お待ち。人を呼びつけて、あまつさえ見せておいて帰るなんて許しませんよ。」

「だって飲めないだろう。どうせ。」

「いくら私だってねぇ貴方、コップ一杯くらいはどってことないですって。」

言うが早いがジャスタスの手からカップを奪い取り、蓋を開けて一気に煽る。
どこか空気の塊のような、水とは全く違う辛さを含んだ液体が喉を流れ込んでいく。
一杯分の酒を胃に流し込み、
どうだとばかりにカップをテーブルに叩きつけると
そこには二杯目が用意されていた。

「一杯目くらい誰でも飲める。これは無理だ。間違いない。」

「…そんなのやってみなきゃわかんないじゃありませんか。」

売り言葉に買い言葉。
リラは許容量以上の酒を流し込むのに必死で
ジャスタスがにやにやと見守っているのに気づかないようだ。
もちろん、差し出されるカップが二杯で終わるはずがないことにも気づかない。

「三杯くらい、どってことないんだろ?」

「……当然れすよ…」

そしていつのまにか、カップは十杯を越えていた。
テーブルにへたりこんだ肩が小さく震え始めたのにも拘らず
意地っ張りなリラはカップを断ることだけは絶対しない。

買い物に出てきた幸江が、雑踏の中をまっすぐ歩いてくるのが
餌屋のウィンドウから見て取れた。
期待よりも少し早めの時間だったけれど、準備は万端。
ジャスタスはそっと席を外す。

「…おや、」

ネギの突き出したビニール袋が、餌屋の前で止まる。
昼間から酔いつぶれている女性を
幸江の良心が見逃すはずはない。