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「…マジ?」
「マジです。」
チューヅとリラは、砂埃に塗れてスウィーティーの言葉を聞いた。
スウィーティーは皮肉っぽく、さも今はじめて状況を理解したかのような
演技がかった仕草で、ぽんと手を叩いて見せた。
クロメらしく、喉がぐるぐると規則的な旋律を奏でているのが遠くからでも聞こえる。
まるで暖炉の前で寛ぐ、家猫のように。
「さてはその子、野良リヴリーなのカナ?
ウワサじゃ飼い主のいないリヴリーは、プログラムがガタガタだとかいうけれど!」
彼は前髪を掻き上げてから、金色の目を満足げに目を細めて見せた。
「…私の見た限り、そんなことは、ナイヨウダネ?」
当てつけられているのにリラが否定しないせいで、
チューヅの頭から静かに血が引いていく。
「ですから言ったでしょ、期待しないようにと。」
彼の不安を見抜いたように、彼女は溜息混じりに弁解する。
「ああ。言ってたな…使えねェにも限度ってもんがあるけどな。」
ただでさえ弱いのに、無駄な重荷を抱え込んでしまった。
ガスマスクの裏に汗が冷えていく。
本当なら頭を抱えてのたうちまわりたいが、流石に勝負の場でそんな姿を晒すわけにはいかない。
鳥類には属さない筈のクロメ達の視線は猛禽のように鋭く、
チューヅが泣き声を上げるのを待っているようだった。
「…ぁんだよ。」
膝を折った体を少しでも大きく見せようと、彼は肩を怒らせて。
「こんなん計算通りだ…来いよ。」
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「…だってよ。どうする、スウィーティー。」
「レディーファーストでドウゾ。」
ソンフィに続き、スウィーティーも地面を蹴る。
彼はどうやら後衛が得意なようで、
がむしゃらに攻めるタイプのソンフィを上手に援護する。
見事と言うべきユニゾンだ。
右。
左。
詰まない逃げ道を見つけると、チューヅはリラの襟首を掴んでソンフィの脇に転がりこむ。
相方に判断を任せるのも、単騎になるのもまずかった。
主砲を確保しながら頭を回す。
いくら強ぶっていても、自分の非力さくらいは自覚しているのだ。
チューヅの小さな体がうまく掻い潜って、金属が空を切る音に振り向くと
ソンフィの後ろに待ち受けていたスウィーティーの
振り下ろすナイフを腕の甲で受け止める。
「コレならドウダイ?/heat」
じわりじわりと温度を増す鋭利な金属に、分厚い手袋の表面が焦がされていった。
恐らくソンフィがポジションにつくまでの時間稼ぎの間なのだろう、
チューヅは布地が焼ききれないうちにナイフを弾いてスウィーティーの股下を潜り
二匹のクロメに前後を挟まれたことを確認すると、しっかりリラを脇に引き寄せた。
「一匹ずつ倒すぞ、姉御。
俺が合図したら、雄のほうに雷を打て。出来だけ途切れねぇように、連射してな。」
上手くいく保障は無い、が。
リラの頷きを気配だけで確認し、チューヅは躍り出た。
「ッしゃぁ、相手になってや…ッだァ!?」
迎え撃ちに来たソンフィの頭を踏み、空中で体を反転させる。
彼女の叫びが聞こえるが、構っていられない。狙いはスウィーティーのほうだ。
隙を見たりと攻撃に転じたナイフをギリギリでかわす。
流石は二日目の敗者である。彼は、確実にチューヅの強みであろう、脚を狙った。
(畜生、)
全て避けるなど楽勝だと思っていたのに、
絡むような痛みが掠めて臑に裂け目が走る。
深手を負う前にチューヅは鞭を伸ばし、相手の胴を捉える。
(今だ)
この高さから地面へと叩き付けられたら骨折は確実。
地面に叩きつけられることは予想できたらしい。
スウィーティーは羽を広げて、下に引き下ろす力に抵抗しようとする。
高度がまた、ぐんと上がった。
「やれ!」
チューヅが叫んだ。
胴に無知の巻きついたスウィーティーの体は、
独楽を打ち出すように、勢いをつけて放り出される。
地面に向けてではなく、上に。
「/thundだああああああっ!」
そして、木のてっぺんに届くくらい高く飛ばされたスウィーティーの耳に、
布を引き裂く音が聞こえた。
いや、それは呪文だった。
甲高い声の詠唱に乗せて地面から届く、三本の稲妻。リラの攻撃だった。
拙い攻撃だったが、空中という状況、加えて重ねることで威力の増した雷のリーチは長い。
「しまっ…」
地面に落ちるまで、彼を守るものは何もない。
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