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06.「食ったことねェカレーだな。うめェ。」
はむはむと、米を食む音。
「有難う御座います。ルーから手作りなんですよ。」
それから食器のかち合う音と、時折交わされる短い会話だけが部屋を満たす。
10人前は軽く賄えそうな大鍋いっぱいのカレーも
数回のお代わりを経て、着実に量を減らしていた。
「そう、ルーとイエバ!」
そんな中、スウィーティーが急に高らかな声をあげ、皆のスプーンの動きが止まった。
彼は首に提げたナフキンで、さして汚れてもいない口元を拭うと、
きっぱりと、それこそあのメデネの審判を思い出させる口調で
「ルールのことから話そうじゃナイカ。
試合場所は私の出すアジトの中。
2対2の勝負で、内容はギュニア杯と同じ。
タダシ、相手が死んでしまっても失格とはしないものとする。コレでドウダイ?」
テーブルの面々が敵同士であると、暗に釘を指す。
カレーライスにすっかり和んでしまっていたが、
そういえばソンフィとスウィーティーは喧嘩をふっかけに来たのだ。
チューヅは決まり悪そうに隣のライバルを見やると、そうっとソンフィから椅子を遠ざけ、
ソンフィはソンフィで、目の前の相方にスプーンを突きつけ抗議しだした。
「待てコラ!これはチューヅと俺のタイマン勝負なんだぞ。
てめェは観客に徹するとか言ってたじゃねェかよ!」
が、スウィーティーはしれっと切り返す。
「ソレは相手が2匹いるとはシラナカッタからさ。
2匹を相手に負けたらドウスル?嬉しいかい?キミは。」
口の中で負けるわけねェと呟きながらも、ソンフィは口を尖らせ、若干の不安を露に席につく。
そういえば確かに彼女らはリラの強さがどのくらいだか知らない。
試合に出ていないからには、まぁ、戦闘員ではないのだろうが
相手が悪かったとはいえ、ソンフィもチューヅと同じく、初戦敗退の身の上だ。
万が一実力のある奴だったら負けるかもしれず、普段ならまだしも、これはリベンジマッチだ。
負けの上に負けを重ねるわけには、流石にいかない。
口達者なスウィーティーにソンフィが言い負かされてしまうと、今度はリラのほうが、ひくりと眉を顰めた。
「にひきですって?…何故私まで勘定に入っているんです?」
「え、仲間じゃねーか。」
リラはスウィーティーに問いかけたつもりだったようだが、答えたのはチューヅだった。
嫌な予感に逃げようとするが早いが手首を掴まれ、リラは露骨に苦い顔になる。
「…喧嘩なんか嫌ですからね。他人のなら尚更。」
「おいおい頼むぜー。女のほうはともかく、男のほうは3回戦までいった奴だぞ?
正直俺ひとりじゃ流石に自信ねーしよぉ…負けちまうって。」
「離しなさい。貴方が如何なろうと知ったことですか。」
言い合いを続けるリラとチューヅ。
横ではスウィーティーがニヤけている。
今のところ、全く彼の思惑通りに事が進んでいた。
チューヅがリラを説得して場に出させれば、彼女の実力が分かる。
その為に彼はソンフィに付きまとっているのだ。
スラバヤの手札全てを、樹樹に見せるため。そして、彼自身が退屈しないために。
もう一押しだと踏んで、スウィーティーは付け加えた。
「ではコウシヨウ。
私もソンフィも、リラに触れたらそこでアウトというトクベツルールを作ればいい。
それならキミは傷つかずにスムし、チューヅは有利になる。
ソンフィはフェアな勝負ができるし、私はタノシイ!ワレナガラ良いアイディアだ!」
チューヅとソンフィが、同時に「おお!」と歓声を上げた。
双方に利益があるとくれば、これはもう意地でも戦うしかない。
リラはとうとう空気に負け、諦めてカレーの最後の一口を咀嚼しだす。
スウィーティーの勝ちだ。
「そうと決まればハジメヨウか。」
空の皿を置き、歌うように囁く彼の右手には
小さな鍵が、金色に輝いていた。
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