ギュニア杯3日目午前:ちゅたろう vs 黒鋼刃

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「なにが?」

ちゅたろうはきょとんと目を丸め、
鈍器の剣がぶんと風をきる。
自分が知らぬうちに黒鋼刃を欺いていたことには全く気づいていない様子だ。

「ふふ、なんでもありません。」

黒鋼刃は小さく微笑んで、もう一度剣を見やった。
大きな剣。
それが斬るためのものでないというのなら、戦い方は全く違う。
例えばこうして相手の胸元に突っ込み

黒鋼刃は踏み切りながら、腹筋に力を込める。

脇腹に殴打を受ける代わりに横面を張りにいくこともできるわけだ。
強い衝撃をまともに食らい、ちゅたろうの頭は小刻みに震える。
応戦しようとするが、振り回した剣も腰程度の高さで、
黒鋼刃には軽く横に跳んだだけで逃げられてしまう。
鈍器もこれだけ大型になると、高く持ち上げるのも容易ではない。
下半身のガードさえ気を抜かなければ、
黒鋼刃の両腕は思う存分攻撃に徹することができる。

「魔法は」

ちゅたろうの胸に入り、肘を叩きこみながら
浅い息の中、彼女は話しかける。

「苦手ですか?」

ちゅたろうは答えの代わりに離した片手で拳を受けると、外に捻り上げる。
よく曲がる関節の動きについていけず、黒鋼刃が引いたところを再び剣の振り。

「不器用だかんな、俺!」

ちゅたろうの呟きが、黒鋼刃の耳を掠める。
その一言が気になって、彼女は力任せに振り回される剣に危うく足を掬われかけた。
危なかった。そう思いながら負けじと叩き込んだ拳は、剣の柄で防がれる。
ちゅたろうの動きは、確実に黒鋼刃についてきつつあった。
彼が魔法を使えないのは間違いない。
詰めも甘く、技術も黒鋼刃には遠く及ばず
確かに未熟ではあるのだが
全力で相手に立ち向かおうとするちゅたろうの戦い方は
それでも、
とてもとても――

…。
一瞬の空白をへて、黒鋼刃は
自分は胸を突かれたのだと理解した。
斬れない刃物といえど、尖った先端に胸を突かれれば相当なダメージがある。
まして、黒鋼刃はほとんどゼロ距離といっていい位置にいたのだ。
刀身の分だけ突き飛ばされて、よろめき、倒れる。

10――。

フランツの声が、黒鋼刃の耳に柔らかく届く。
彼女が目を開くと、ちゅたろうがすぐ傍らに立って、横たわる黒鋼刃を見守っていた。

5――、4―…

背後で着々と数字が読み上げられる中、
ちゅたろうはさっぱりとした、気持ちの良い笑みを浮かべ、
まるでスローモーションでも見るように、彼はゆっくり唇を動かし。

お前は、どうしてギュニア杯に出ようと思ったんだ?と、言った。