ギュニア杯3日目午前:ちゅたろう vs 黒鋼刃
「でえええいっ!」
ちゅたろうは元気に雄たけびを上げると、大きな剣をぶんぶんと振り回して突撃してきた。
しなうように暴れ狂うそれに黒鋼刃の銃が弾き飛ばされ、
彼女はあわてて縦横無尽に動く鉄の凶器を
弾むように飛び越え、くぐる。
プリミティブブラックドッグもカンボジャクも足捌きはお互い譲らないスペックだが、
いや、むしろ黒鋼刃のほうが女性の細さがある分身軽さでは優れているかもしれない。
黒鋼刃は続いて、足元を掬いにきた剣の平を踏み台に跳び乗ると
意外な動きに「あっ」と声を漏らしたちゅたろうの横っ面に思い切り蹴りを入れた。
一瞬弛緩したちゅたろうの肩を蹴り、彼の背後に回る。
この程度の攻撃で沈むような相手ではないだろうという黒鋼刃の読み通り
彼はよろめきながらも踏みとどまり、剣を地面に突き刺して体を支えた。
「…ふぅ…痛って…」
にか、と笑ってみせたちゅたろうの前歯は赤く
どうやら口の中を噛み切ったらしい。
黒鋼刃が蹴りに入るまでには、しばしの間があったはずで
少しでも戦いに慣れている者だったならば、そのあいだに見切って歯を食いしばっておくだろう。
「加減いたしましょうか?」
「そんなん、いらねっ!」
彼は振り向きざまにぶんと剣を振り回し、再び足元を掬おうとする。
さっきと同じ、ワンパターンな動きだ。
黒鋼刃にとっては避けるのにたいした労力を必要としない。
素人だ。
黒鋼刃が踵で剣先を蹴り飛ばし、軌道をぶらせばちゅたろうもつられてふらつく。
ちゅたろうの無防備さには、戦い慣れしていない様子が見受けられた。
(ならば、何故ここまで勝ち残って来られた…?)
しかし、足元を狙い続けるということは
見方を変えれば黒鋼刃の動きを止めるのが先決だということに
気づいているということでもあった。
黒鋼刃が打撃を主とするパワー型だと知っていて、
あえてその強さを根底で支えている『動き』のほうに目をつけてきた。
(素質はある、と見ていいかな…)
黒鋼刃は縄跳びの要領で剣の襲撃を越えると、
ただ避けているように見せかけながら、大股に数歩ぶん、距離をとる。
手の内を知られている相手にその通り攻めてもつまらない。
それよりも、黒鋼刃はちゅたろうの戦いをもっと見てみたい、そんな気分にさせられた。
例えば彼女が魔法でも戦えることを知ったなら。
「/storm!」
彼はどんな反応を返してくるだろうか。
普段ならモンスターに使う魔法が最大出力で黒鋼刃の腕から放たれる。
土煙がちゅたろうを巻き込んで、一瞬彼の淡いピンクを消し去った。
「これでどうですか、ちゅたろう様…」
ちゅたろうはどういう相手だろう。
黒鋼刃は出方を待った。
武器を使用するリヴリーには、大概ある傾向があるものだ。
魔力を応用して使うための武器か、それとも弱い魔力を補うための武器か。
経験上、ちゅたろうは後者だろうと彼女は踏んでいた。
魔法は苦手で、耐性も無い。
同じ魔法を繰り出して威力を相殺するという、対人戦闘の基本ができない。
そのぶんを身体能力と武器で補っている、そういうタイプ。
砂埃が、つかの間、静止したように落ち着く。
剣の白が閃き、ちゅたろうが切り裂いて出てくる。
黒鋼刃が思うよりずっと早く
「…えっ!?」
目を疑うと、殴りかかるように剣が彼女の腰から上に斜めになぎ払った。
激痛。
幸い斬り傷にはならなかったが、打撲したような痛みに黒鋼刃のペースが少し崩れる。
「これで…手加減とか…」
ちゅたろうは、にっと照れくさそうに笑むと
再びぶんと剣を足払いに使った。
「もう言わねぇで…」
しかし狙いが甘い。
崩れた体勢のままでも黒鋼刃は剣を避け、
「くれるよなっ!」
当たらないと見るや、彼は今度は拳での攻めに切り替えてきた。
「/storm!」
右腕が黒鋼刃の肩に当たり、重心が移動した瞬間を狙って
彼女は詠唱する。
狙い通り、ちゅたろうは「わああ」と叫びながらバランスを崩した。
が、何故か距離がとれない。
ちゅたろうがまるで鉄の塊であるかのように、吹き飛ばないのだ
BACK