ギュニア杯3日目午前:ちゅたろう vs 黒鋼刃

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「あ、悪ぃ悪ぃ!これじゃはじめらんねぇよなっ」

ちゅたろうは黒鋼刃を手放すと頭を掻いて位置についた。
続いて下ろされた黒鋼刃のほうも、ふらふらと線の位置まで下がる。
照れくさそうに鼻を擦るちゅたろう。

「へへっ やっぱ、憧れの奴と手合わせできるってなると
 つい、うかれちまってさ!男惚れっつーのかこういうの?」

「憧れ…の…。」

憧れ。
黒鋼刃は逆三角形の目を大きく丸く見開いた。
抱いたことは幾度もあれど、抱かれたことは滅多にない。
銃を握った手を口元に当てていると、顎を、血液が伝う。

「試合、」

「あ、ちょっと待った!」

フランツの言葉をさえぎって、ちゅたろうがまた大声を張り上げた。
珍しいものを見つけた子供のような仕草で人差し指を前に向け

「黒鋼刃、血が出てっぞ、ここんとこ!試合前からそりゃダメだ。拭いてから。な!」

黒鋼刃が我に返り、慌てて鼻の下に手を当てると、
鼻血がべったりと指を赤く染める。

「あ、あわ…?あ、も、申し訳ない!」

「ははっ!いいっていいって!そんなに真っ赤になったらもっと出血しちまうよ」

もたもたティッシュを取り出す黒鋼刃を、フランツは無表情に待っていた。
相変わらずこの男は真面目というべきなのか、
表情豊かなことときたらロボット並みだ。

後ろを向いて皆に見られないようにしながら、鼻にティッシュを丸めて詰める。
どう見ても男であるとはいえ、黒鋼刃だって女の子だ。
…憧れ。
それなりの好意を向けられているということが嬉しくて嬉しくて
彼女はもう、ちゅたろうに抱きつきたいくらいの心境だった。
が、自身の惚れ癖が酷いことは承知してはいたが、公衆の面前でこの体たらくは恥ずかしい。
怒涛の勢いで脳内に押し寄せるお花畑を振り払うように
汚れた部分をごしごし拭う。
これで耳元まで真っ赤に上気しているほかは、普段と変わりなくなった。

「あ、ありがとう…準備完了です。始めましょう。」

「試合開始。」

黒鋼刃が顔を上げると、間髪入れずにフランツが/chimeを鳴らす。
しゃーっす!元気にちゅたろうが礼をした。



「憧れ…そう言っていただけるのは嬉しいことです。」

黒鋼刃はその言葉の飴玉のような舌触りに
思わずふっと目を細める。
銃を強く握り締めると体の火照りが収まり
燃えるような戦意に変換されていくのを彼女は感じる。

「ならば、全力でお相手するのが礼儀というものでしょう。
 こちらからいかせていただきます!」

うっとりしていた乙女の目は、たちまち獲物を狙う狼のそれに変わる。
即効でちゅたろうの目に狙いをつけると
水鉄砲内部の液体を/slingで加速させる。

「おう!俺も本気でやらしてもらうぜ。おてわやらかに頼む!」

あの人懐こい笑みをちゅたろうは満面に浮かべ
身長ほどもある大剣をすらりと背中から抜きとる。
叩きつけるように体の前に振り下ろすと
刀身が盾になり、攻撃を防いだ。