05. vsサイエンスレジェンド

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「オカエリ!オカエリ!ダイシュキ!」

落ち着くだけの時間を空けてスラバヤに戻ると
ドルテが女の子特有の黄色い声で叫びながら
えんまの頭に飛び乗って、ジャスタスの首に抱きついてきた。

出撃の前に怒っていたことなんか、すっかり忘れている。
ドルテは何度か、すぎくに弄られて泣いている彼を見ていたから
ロボットを爆破されて戻ってきたときたらもう奇跡の生還を見たようなものだったからだ。

チューヅも斜に構えて彼と目を合わせ、

「負ける気がしねぇんじゃなかったのかよ。」

と揶揄する。
どこか楽しげな、親しげな雰囲気を込めて。

スラバヤに戻った後のジャスタスはすっかり元の嫌な奴に戻っていた。
お返しに、赤色の目にたっぷりの侮蔑を塗りたくってチューヅに投げてやる。

「想像力の欠如とは嘆かわしいものだな。
 すぎくは僕を部屋に閉じ込めて一晩中いたぶりつづけるような奴なんだぞ。
 僕くらいのパイロットでも苦戦するのは致し方ないさ。」

「まぁ呆れた!攻撃もできなかったくせによく言いますよね。」

「あんなのに攻撃なんかできるか莫迦者。
 ロックオンもしないで発砲するどっかの鳥頭より
 よっぽどマシな判断だよ。」

一矢報いなければ気の済まない様子でリラも参戦してくる。
安心したのやら、ジャスタスは好調に嫌味を飛ばせるようだ。
首にはドルテが巻きついて、相変わらずきゃあきゃあ騒いでいる。

「なんで?友だちだから?」

首を傾げたえんまの問いは、ジャスタスの耳には届かない。
そういう振りをした。




「親友だからです。」




「しんゆう…。」

ウルイはすぎくの口にした言葉を繰り返し、そのあまりに辛い味を吐き捨てる。
それは、どうしてあのパイロットを逃がしたのか、という答えになっていないだろう、とでもいうように。

そもそもワープ先の目星をつけることは、少しの手間をかければ可能だったはずで
とすれば、わざと逃がした以外に考えられない。
第一、親友だの友情だのいうものは、ウルイには考えられない概念だ。
それはウルイがマダラカガで、温かい血が流れていないからではない。
(それをいうならすぎくなんか刺胞動物である。)
不正コピーで作られた偽のリヴリーで、皮膚が鱗で覆われていることとも関係がない。
額にぱっくりと口を開けている第三の目とも関係ない。
友愛?
それは単に、ウルイの性格と、水が油を弾く以上に相容れないというだけの。
忌まわしい。反吐が出る。
ウルイは、このゲッコウヤグラを理解するのを止めた。

「仕事に感情を持ち込むな。
 あれが再び悪さをしだしたらどう責任をとるつもりだ。」

「ピグミークローンは少ないんですから保護すべきだと思います。」

不真面目めかして答えてみたが、予想を超えてウルイが睨みつけてきたので
ふざけ過ぎたとやっと自覚したのだろう、
姿勢を正してすぎくは続ける。

「しませんよ。彼にそんな知能も度胸も甲斐性もありませんってば。
 いざとなったらまた私が出ていくので安心して下さい。」

すぎくがそこまで言ったとき、
ぶつっと紐の千切れる音を立てて館内放送のマイクが入る。
本当はニ、三語付け足したいこともあったのだが、
ウルイが、がばりとスピーカーを見遣ったのを見てすぎくは口をつぐむ。
口が笑みの形を作るのを堪えながら。
間もなくして、アナウンサーにも似た女性の声がさえずり始めた。

ちょっとウルイ!テロリストのアジトがつかめたんだけど。
あっちに気付かれる前に早く潰してきてよ。

ウルイの飼い主、ゆうかだ。
この声でなんと小学生。
資産家のご令嬢である彼女は、ウルイをまるで使用人か何かのように扱った。
買い物のお供に荷物を押し付けるときのような口調で
もしくは、エアコンのスイッチをぴっと押すときのような気軽さで。

ウルイの体が声の方向に引っ張られるように傾く。
ゆうかの命令を気にしながらも、すぎくから目は離さない。

「何を突っ立ってるんです。あなたのだぁいすきな飼い主の、ご指名ですけど?」

ウルイはいっそう苦しげに顔を歪めた後、指令室に走り出していた。
後ろ姿は心なしか嬉しそうに、まるで大好きな主人の元に駆けていく犬のようで
って実際そうなんですけど。

「あーゆーのが理想のペット、ですかね…」

肩をすくめてウルイを評すと、すぎくの姿は長い廊下の奥に消えていった。