05. vsサイエンスレジェンド

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「むかつくぜ畜生!」

ふわふわで可愛らしいウォームのぬいぐるみがとばっちりを受け、
腹部に真っ黒な足跡をつけてすっとんでいく。
蹴った張本人、チューヅは、
まだいらいらした気配をみなぎらせたまま
さらにぬいぐるみを踏みつけながら
南米スラバヤの地面を右往左往している。

「調子ぶっこきやがってあんのハゲ。
 てめーはガンダム乗りたてのアムロかっつーの!なあ!」
「そうだねえ、
 もしかすると、ジャスタスさんは、アムロさんかもしれないねえ。」

穏やかにえんまが相槌を打つ。
スラバヤで今、怒っていないのは彼しかいない。

「『負ける気がしないな』だと、笑わせんじゃねえ!
 メカニクローン作ってやったのは誰だと思ってんだ!」

「んーと…ジャスタスさんかな?」

「ばか!
 お・れ・だ・よ!俺!」

ぎろりと振り返ったチューヅに気おされたのか、
えんまはもたもたと言い訳をした。

「そうかあ、ぼくはてっきりジャスタスさんかとおもったよ。
 鉄板もジャスタスさんがかってきたし、
 ネジも、なんかいろんな部品も、ぜんぶジャスタスさんがそろえてたから、
 ぼくはジャスタスさんが、つくったひとなんじゃないかなあとおもってしまったよ。
 なんてったって、あんなにえらそうにしてるしね。」

それが火に油を注いでいるとは露知らず。
だが、確かにそうなのだ。

それがジャスタス自身であるとでも信じているかのように
ざくざくと葱を刻むペースを速めながら
ぼそりとリラが憂う。

「貢献どうこうより、あの態度が腹立つんですよね。」

「そこなんだよ!
 確かにアイツは金持ってきたかもしんねー、操縦がうまいかもしんねーけどよ、
 だからといって俺たちをバカにする権利なんざありゃしねーじゃねえか!
 マジ糞ムカつくぜあん畜生はよ!」

びしりとリラを指差し、振り向きざまに何か蹴飛ばしたチューヅは、
つま先に走った激痛に体中を痺れさせた。
それはえんまがそこらへんに放っておいた壁掛け時計
(今は床においてあったのだが)で
全員が注目したとき、ちょうどそれはきっかり十一時を指していた。

「じゅういちじだ。」

「彼の高慢が上塗りされるまで、あと一時間ってとこですね。」

「なんとかなんねーかな…」

そのときチューヅは半分無意識に呟いたが、幸いだ。
その願いは本当に、なんとかなるのだから。


Date: 2008/02/27/Wed/20:03:30 [233]





しずみ
事は、バンブーアンケートパークの掲示板前で起きた。

巨大な掲示板の上の文字、今日はアンケートのテーマ入れ替えの日だ。
係員のバンブゥと手伝いのクンパがせっせと運んできた看板が
すっと上に、まるで羽でも生えたように飛んだ。
驚いて彼らが上を見上げると、
そこには高さ3メートルもある
鉄でできた巨大なピグミークローンが立ちふさがり
手の中でぐしゃりと看板を握りつぶしていたのだ。

「悪いが今週のアンケート内容は急遽変更だ…永久にな。」

拡声器を通した声が、笑いを含んで言った。
新しい看板はこう書きかえられている。

GLLを無料にしたいか、どうか、と。

「そんなの聞いてません困ります。」

バンブゥは面倒くさそうにちょっと頭をかき
ぶつくさと、それでいてきっぱりと答えた。
郵便配達の仕事がアンケートの集計に変わり、
人手も増えて
やっと面倒でなくなったと思ったのに…
仕事の後にはバンブゥの趣味である
昼寝の予定が入っているのだ。
こんな得体の知れない鉄人に邪魔されて、
不機嫌にならないはずがない。

「そうだよ!君、スタッフの人じゃないくせに!
 バンブゥさんは忙しいんだ!バンブゥさんを困らせるな!」

珍しく語気を荒げるバンブゥに、
背の小さく、まだ幼い見習いが同調する。
彼はバンブゥを尊敬しているのだ。
仕事を面倒くさいなどと思っている姿を
見せるわけにはいかない。
バンブゥはぼんやりと、血気盛んな彼を羨ましく思う。

だが、彼の言葉はそこで途切れた。
まだ柔らかな腹部に一発。目に一発。
素早く打ち込まれたのはただの投石だったが、
ものすごい勢いで発射されたため
クンパは悲鳴を上げてよろめいた。
泣き喚く彼を抱き寄せるバンブゥの耳に
嫌味の詰め合わせのような高笑いがきんきん響く。

「見たか!つべこべ言ってると君もガキと同じ目になるぞ!」

「ここの責任者は僕です。
 あなたが何をしようと、職務を放り出すわけにはいかない。」

「勇敢だな。敬意を表して後回しにしてやる。
 先に周りの諸君を一人ずつ撃っていこう。どうだね?」

バンブゥは周りを見回し、
意外と自分が仕事を大事に思っていたこと、人望があったことを知った。
パークにいたものの中には
怠慢で名が通っていたバンブゥの意外な一面に、
涙ぐむ者までいる。
もう後にはひけない。

「わかりました。何が目的ですか。」

答える気を見せずに砲身をカチリと鳴らす音に焦りながら
いくつか迷って、ポケットの中の緊急連絡用の
携帯電話のボタンを押す。

「こんなことをする理由だけ教えてください。
 場合によっては、聞けない願いでもないですよ。」

「そんなに聞きたいなら教えてやろうか。」

強盗は滔滔と、朗々と、
謳いあげるようにこれまでの物語をさえずりだした。
だがそんなものバンブゥは聞いてはいない。
どうやって周囲のリヴリーを逃がすか考えながら、
後ろ手に構えた携帯電話に
彼の声を聞かせることに集中するばかりだ。
音さえ聞こえれば、こちらが何か言わなくても解るはずだ。
強盗は自己陶酔すらしている様子で、
バンブゥの手の不審な動きには気づいていない。

解るはずだ。
アンケートパークに強盗がいると。
"彼ら"なら、なんとかしてくれる。

「まぁそういうわけでだな、この僕らが
 仕方なくGLLの運営を肩代わりしてやろうと言っているのだ。
 だれだって有料のものが無料になるのは嬉しいだろう?
 アンケートなどとらなくても、
 僕らに指示が集まるのは自明の結果なのだがな
 僕らは民主的で慈悲深い性格なので、
 一応君らの意見を聞いてやってもいいかと思ったのだ。
 もちろん組織票などで操作しようものなら…」

「ちょっとあなた。調子に乗りすぎじゃないですか?」

「本社にミサイルを数発ぶちこんでやってもごっ、ごめんなさい!」

自信に溢れた演説は、悲鳴にも似た甲高い声で打ち切られ。

来た。
はっとしてバンブゥは、ロボットがよろめくように後ずさったのと
真逆の方角を見上げた。
曲がりくねって育つ、背の高い竹の上を。

その視線の先にいるのは、たった一匹のゲッコウヤグラだった。
デフォルト色の、大きさもデフォルトのままの、何の変哲も無い。
満月色の瞳を眠たそうに瞬き、柔らかに風になびく髪と同じ感触で、

「お久しぶりですね、ジャスタスさん。」

すぎくは微笑む。