05. vsサイエンスレジェンド

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巨大なカンボジャクを象ったロボットと、
同じくピグミークローンの形のロボットが対峙している。
互いに長い間戦っていたらしい。
カンボジャクはボロボロで、真新しいへこみや傷も目立つ。
片やピグミークローンの損傷は、劣勢であるにも関らず浅かった。
そう、互いに同じように向かい合っているのではない。
正確には、カンボジャクがピグミークローンに
ビームを浴びせかけているのだ。

圧力に耐え切れなかったのだろうか。
いとも簡単にピグミークローンは倒れ付す。
倒れたまま動かない敵の様子を
カンボジャクはしばらくのあいだ窺っていたが
相手が動かなくなったのがわかると、
ワーイ!勝タゾ!と、万歳しているが見えそうなくらいの歓声を上げた。

「受身取るの遅いな。間接かどっか不調か?」

やたらと広い(実際は延々どこまでも続く亜空間だ)草原はアジトで、
そこを島から見物しているらしい、チューヅの声がふたつのコクピットに響いた。
ジャックジョーカーの中で
諸手を上げて喜んでいるドルテはさておき
横倒しになったままのジャスタスは余裕の表情で首を振る。

「ドルテ相手に僕が本気になるわけないだろう。手加減してるだけだ。」

「ばーか、試運転でそれじゃ意味ねーだろ!勝てよ!」

「はぁ…もう練習には飽き飽きしているんだよ。だが、そんなに言うんなら…」

彼は面倒くさそうに、しかしにやりと笑みを浮かべると
機体の背中のブースターを全開まで噴き、全身をぐんと起こした。
ちょうど操縦桿を握っていなかったドルテはあわあわと構えに入ったが追いつかない。

「/blackworm!」
「キャァ!」

指先の噴射口から発射した目くらましのクロムシが
べたべたとジャックジョーカーのカメラを塞ぎ、
何もみえなくなったところに、首を殴られる。
関節の複雑な首部分はとかく弱い。
ぶち、と大きな音と電流が漏れ、
大きなカンボジャクは砂埃を上げて倒れた。
一瞬おいて、ちぎれた首がごろごろと転がっていく。
チューヅと一緒にモニターを見ていたリラは、その様子に顔を引き攣らせ
「お見事。」と毒づいた。

「メカニクローンのスペックはこいつとそう変わらないんだろ?」

「確かにクローンのほうが硬度がある。と、クロムシ煙幕張れるとか色々追加機能もあるけどな…。」

「じゃあ僕のほうが強いのは一目瞭然じゃないか。」

「でもよ、ジャックジョーカーには勝てたとしてもよ…」

「僕が乗るんだぞ。負ける気がしないな。」

優越感を顕わにした言葉だった。
チューヅは喉の奥に何かがせりあがってきたような怒りを感じ、言葉を詰まらせる。
それを何の表れと受け取ったのだろう。
気に留めすらしなかったかもしれない。
ジャスタスはコントロールパネルに頬杖をつき、

「そもそも、ジャックジョーカーも僕に任せておけばよかったんだ。
 はっきりいってこいつでだって僕は毒飴に勝つ自信がある。賭けたって良い。
 これで負けるというなら、製作者の欠陥以外にあり得んね。」

モニターは一方的にコクピットを映す。
パイロットには窓からの視界しか与えられていない。
きつく握り締めたチューヅの手も、
唇を噛み締めるリラの表情も、
束の間の勝利を失ったドルテの失望も、見えない。

「…正午決行だ。ウォーミングアップしとけ。」

島との交信が途絶えた後、メカニクローンの大きな手が
ジャックジョーカー、の残骸に伸びる。
それはエスコートする紳士のように、滑らかで優雅だ。
5人の中ではジャスタスが一番操縦の飲み込みが早い。
2本しかないレバーでどう動かしているのだろう。
指を器用に使って、ハッチをトントンと叩く。

「ドルテ、ハッチを開けてくれ。大丈夫か。」

蓋は開かない。

「…ヤダ。」

ざらつくスピーカーの雑音に紛れるように、そう聞こえた。

「え?」

「イタイ。ヒドイ。ヤダ。」

膨れたほっぺたからこもるように溢れた声は、
ほとんど聞き取れなかった。
それでも彼女がむくれていることは十分に伝わり、
ジャスタスは仕方ないなと溜息をつく。

ドルテの怒りは発作的だ。いつもそう。
10分も立てばけろりと忘れるだろう。
だが、彼らはどうだろう。