05. vsサイエンスレジェンド

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風に踊る長髪を払い、
すぎくは後ろ手に拡声器を取り出す。

「どうしてごめんなさいなんですか。
 きっちり説明しなさい。
 また分からないなんていったら承知しませんよ。」



「何だ?あいつ。おいハゲ、言い返してやれよ。」

しかしジャスタスは動かなかった。
目を丸く見開いたまま、反射的にごめんなさいと言った口を閉じることもできず、
誘導されたように無意識のまま、唇を動かす。

「…こんな、抗議をおこして…周りの人に迷惑を…」
「どうしたんだよジャスタス!やり返せ!」

チューヅの二度目の怒号で彼はやっと気を取り直し、

「違う違う違うっ!
 僕は崇高な目的に向けての第一歩を踏み出しているだけだ。
 謝ることなんてないんだ。どうだ、何が悪い!」

しかしあの細かい発音にいたるまで人生をなめくさった口調は
さっぱり消え去っており、僅かな震えを伴う声色では
どうしても空威張りにしか聞こえない。

「違いません。」

変わってすぎくはぴしゃりと言い放った。

「貴方は公共の場で駄々をこねているだけです。
 おもちゃ売場で騒ぐ糞餓鬼にも劣ります。恥を知りなさい。」

すぎくはプロだ。
柔らかな態度は崩さないまま、口だけで相手を捻じ伏せていく。
ちょっと叱りつけただけで泣きそうなジャスタスの表情が
見えるようで、友達とはいいものだと、すぎくはつくづく思う。

「騒いでいるのはお互いさまだろうに…」

「おや、そういえばご紹介が遅れましたね。我々はサイエンスレジェンド。
 魔王を復活させようとしたりモンスターが暴れたり
 一介の仲良しクラブが世界征服を企てたり、
 そういった笑い話にもならない有象無象を押しつけるために結成された公認のチームです。
 ちなみに魔法じゃなくて科学ですから、お間違いのないように。」

「う…っ、」

完璧だ。ぐうの音も出ない。
すぎくはカチカチと、拡声器の音量を上げた。

「しかし私もまさかお友達が敵に回るとは思いませんでした。
 外も中身もあなたの頭はツルツルなのでしょうね。情けないことです。
 お友達でなければ石に括ってWGPに沈めてやりたいくらいです。」

「…、」

すっかり怯えてしまった気配を感じたのか、すぎくははっと言葉を慎んだ。
今度は語りかけるような、友好的な口調で続ける。

「でも安心して下さい。
 私は優しいのであなたを人格として尊重してやっても良いですよ。
 脳の一部を切除すればその腐りきった根性は治せますから。
 素直になったらちゃーんとペットとして可愛がってあげるし、
 リハビリにだってつきあってあげましょう。
 どうですか。嬉しいですよね。」

返事はない。小首を傾げ、拡声器の音量を最大にする。

「嬉しいですよね!」

パークは怖いくらいに静かだ。
観衆たちも緊張と同情(と、若干の引き)を感じながらも見守っている。
ジャスタスはやっとのことでふるふるとかぶりを振ったが、
残念ながらそれはすぎくには見えなかった。

「何故でしょう、感謝の気持ちがぜんぜん伝わってこないんですよ。
 失礼なひとです。」

言い終わったところで可愛らしい電子音が、すぎくの耳元に届いた。
ウルイからの通信だ。本部が仕事を早く終わらせたいらしい。
(余談だが着メロはシュガーの『ウェディング・ベル』だった。)
無視してしまいたいが後が面倒だ。
「すぐ切りますからね。」と、インカムのスイッチを入れる。

「どうしましたウルイさん。感動の再開を邪魔できるような用でも起きましたか。」

感情に乏しい声音が、通信機を通して唸る。
それだけで彼が苛立っているのがひしと伝わった。
だいたい、ウルイの言葉などわざわざ聞かなくても解りきっているのだ。
すぎくの視線はつまらなそうに空をふわふわする。

「また遊んでいるんだろう、リヴリー。操業を止めるな。早く潰して戻れ。」
「はいはい、仰せのとおりに。
 だそうですからジャスタスさん、一旦ここでさよならです。」

そうしてすぎくが構えたのはランチャーだった。


ロボットを倒すのは簡単だ。
一カ所に強力なダメージを与えるよりも、複数ヶ所を一度に攻撃したほうが効果的で、
場合によっては生身のままでだって倒せるくらい

「っひ…!」

命の危機を感じ、ぐら、とロボットが身をかわそうとする。
しかし震えた手では回避行動などとれるわけがない。
スピーカーが割れんばかりの音で叫ぶ。

「やっべ、ボンバーネットだ!逃げろハゲ!」
「ムリだよぅ!ライトアーム、レフトアーム、ダウン!
 レッグもそろそろダメなる!」

発射された網状のワイヤーは、網目の節々に付いた爆弾を足がかりに
しっかりと関節に食い込み、電線を挟み切っていく。
両腕をだらりと下げ、膝をつくメカニクローンに、すぎくはすらりと指を向け。

「反省しなさいね。thunder。」

天からの衝撃。
加えて、網にくっついた爆弾が次々に発動する。
鉄製のピグミークローンには為す術もなく、
崩れ落ちる廃屋のように、土煙がもうもうと上がった。