はてさて、前回捨て台詞を残して帰ったピグミークローンでしたが。
年中がまるで冷蔵庫!といわんばかりに凍結した祀り岩の
島の冷たさに彼が身震いをしたかしないかのコンマ数秒の間です。
「ジャースーたぁんっ!」
一匹のドピンクのジョロウグモが八本の脚をがばっと開き、
高く飛び上がったところから彼の頭の上に急降下して参りました。
べちゃっと鈍い音を立て、無残に潰れる黒い毛皮。と、包帯。
「ド、ルテ、悪いがその、もう少し横に…爪が刺さっている…!」
「OH!ソーリー」
いそいそとジョロウグモは脚をつき、体を起こし、
そのブルドーザーのような抱擁からジャスたんことジャスタスを放ちます。
ぐらつく頭を押さえ、それでも嬉しそうに、彼氏のほうが立ち上がり
二人して…こちらが嫌になるような甘い『おかえり&ただいま』を
見せ付けてくれちゃったりして云々。
はっきり申し上げて坊主の癖に恋人なんざつくるなど、
邪淫に生意気もいいところなのですが
そう指摘したところでどうせ聞きますまい。
ひととおりのアレが済むと、ドルテと呼ばれたジョロウグモは
マルルの木の下のクッションの積まれた上に
ぼすんと腰を落ち着けました。
「バイザウェイ!聞いて聞いて。
バスチアンが今日も酷かったダヨ。
ドルテチャンは怒って怒って、おうち飛び出してきたダヨ!」
バスチアンというのは、
怪物の森の一角を仕切るアルゴルの名前であり
何故そんな大物の名が出てきたかというと、
ドルテを拾ったいわゆる親戚、義理の叔父にあたる方だからです。
なにせ彼はドルテを目の敵にしておりまして、
顔を合わせちゃ虐め、野垂れ死ねばそれで良しという有様。
当然、結婚やら交尾など…ましてリヴリー相手では
到底許すはずもございません。
「ジャワのおねぇが交尾しててね、アタシも混じろうとしたのネ。
したら、バスチアンが来て、こう言ったの」
そこでドルテは唇を尖らせ、頬を両手で押しつぶして曰く
『は?チミなんかが子孫残していいと思ってんの?
妊娠とかしようもんなら、
腹かっ裂いて母体もろとも食ってやるからそう思えよ』
「キーッ!ムカチュク、ムカチュク、ムカチュクっ!
これじゃ、アタシとジャスタスのベビーは作れないじゃないノヨーっ!!」
「なんということを…相変わらず認めて下さらないんだな、
その…アルゴル氏は」
ぼすんぼすん、クッションに頭を打ちつけ、手で殴り、
仕舞いには引きちぎってしまう。
どんな鬼舅も、流石にここまでは言いませんでしょう。
まして実行などしないわけではございましょう。
が、相手はバスチアン。アルゴル中のアルゴルです。
悔しいが、一介のジョロウグモやリヴリーが楯突いたところで屁でもない、
というか酒のつまみにもなりゃしません。
無力な彼等にできることといえば、
夜な夜な八本脚のわら人形に五寸釘を打ちこみ
圧制の開放を待つことばかりなのでした。
溜息をついてジャスタスはドルテの首筋に手を置きなだめ
撫でること一度、二度――
「おい、ドルテ」
「にゃによぅ」
そこでふと、気付いたようでした。
「…怪物の森を、征服しないか?」
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