…vsジャスタス

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彼の微笑の意味を解する間もなく、ジャスタスは爆風に包まれる。
自身の爆発に加え、その炎が周りの火薬にも誘爆。
火種は完全に無効化したと思い込み、無防備になっていたところにまさかの不意打ち。

『rain』――詠唱する際口にするその呪文自体に言葉の爆弾が仕掛けられていたとしか考えようがない。

「…未だ…私に…勝てるとでも、思うか?」

状況を分析しながら唖然としてしまうジャスタスを
チュータツはニタリと、悪意に満ちた哂いで射抜く。

『無理だ。』

…一体自分は、何を弱気になっているのか。
声に言われ、ジャスタスは自分を振るい立たすように額を軽く叩く。
チュータツは立ち上がってはいるが、さっきのダメージが重かったようで、まだ呼吸が整っていない。
次仕掛ければ、絶対に避けられないのは明白だ。

「押されている分際で何を抜かす!/drive!」

相手の位置が分かっているので、追跡で一気に距離を詰める。
逃げようとする白衣の襟首を片手に捕まえ、反撃できないように相手の肩を反らしてしっかり胸に押さえつけた。
罠があろうと無かろうと、こうしておけばチュータツも巻き添えだ。

「…くっ…/freeze!」

チュータツのほうでもそれは読めたらしく、表面温度を下げて手を離させようとしてくる。
が、そこまで温度は下がらない。おそらく白衣の内側に薬品を忍ばせていて、それに及ぼす影響を危惧しているのだろう。
相手を肩口まで引き寄せると、そのまま海老反りにさせるように倒し、両の肘で首を抱え込む。

「ぐ、ぅ…!」

魔法を使う相手は、喉を潰してしまうに限る。
足先が着くかつかないかと状態だ。
しなった背骨だけで自重を支えようとするほど呼吸が締まるだろう。
体の末端から軽く痙攣を始めたチュータツの指が、必死で白衣の内側に忍び込もうとしているのに気づき
早く終わらせてしまおうと、ジャスタスは相手に近いほうの腕をぐいと引きつけた。

足首に、すさまじい痛み。
ぐきり。

「――――、」

言葉も出なかった。


試合前に飲んだ痛み止めが効いていたのか、
負傷していたのをすっかり忘れて軸足にしていた右足が、ここぞとばかりに暴発した。
ふたり分の重みを支える場合ではなく、ジャスタスはチュータツを手放し、自分もその上に転ぶ。
急速に緩んだ腕の隙間で気を失っていたチュータツが地面に叩きつけられて目を覚まし
白衣の内ポケットに素早く手を挿しいれると、一本の試験管を取り出した。
甘い紫色をした液体。
上体を起こしたジャスタスは、それを目の前に突きつけられた瞬間凍りついた。

「…この薬品が解るな?」

プラステリン。

元はリヴリーの種類の純正さを判別する試薬として使われていた、
今はそれによってもたらされる形状の変化を楽しむための、何のことはないマーキング薬だ。
ジャスタスは試験管に釘付けになったまま、小さく頷いた。
効果は即効だが攻撃性はなく、
浴びたからといって、別に死ぬわけでもない。
本来の使い方のとおり――例えば、ピグミークローンとピグミーとの違いを遺伝子レベルで明らかにする、
その程度の効果しかもたらさないだろう。

至近距離をとったのが間違いだった。
チュータツは、ジャスタスが確実に逃げられない位置に来るのを待っていたのだ。

「降参、だ。」

考えるよりも先に、その言葉がジャスタスの口をついて出た。