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試合前01.
試合前02.
01.
02.
03.
04.
「…一応断っておくが、僕の所為では
「言い訳はいい。胸が悪くなる。」
ぴしゃりと言われ、口を噤んだ。
負けるつもりはない。それはジャスタスのプライドが許さない。
しかし、勝って帰ろうものなら、えんまに文字通り粉砕されかねない。
えんまはチュータツに(何故だか知らないが)非常に懐いており、
割りに友情に淡白な彼が、珍しいほど熱心に接する相手なのだ。
負かすにしても、傷つけずに負かさなければならないが――
『お前にできるわけがない。』
『無理に決まってる。』
『止めてしまえ!』
声が煩い。
試合相手に加え、精神操作とも戦わなければならないなんて、どんなハンディだ。ぼんやりと、そう思う。
ジャスタスはふうと長い息を吐き出し、頭の中の声に釣られないように前方に神経を集中した。
「少し、誤解があるようだがな…」
チュータツの怒りの原因は、はっきりしていた。
彼は、えんまを傷つけたくないのだ。
ジャスタスは、いや、他の誰もその理由を知らないが、チュータツはしばしばえんまを加護する。
一時は軍師として名を馳せた切れ者である彼のことだから、
その裏には何か思惑があるのだろうが、それにしたって、まさかGLLまで追いかけてくるとは。
親ばかもここまで来ればあっぱれだ。
だが、今回出場を決めたのはチューヅであり、ジャスタスでは無い。
そこに誤解が生じているのは事実だ。
「細かい説教は後にしてくれたまえ。今は試合だろう。僕は君に勝つことだけを考えていたいんでね。」
言葉だけ聞けば、自信に満ちている。
内心では半ば諦めそうになっているのは、見た目には分からない。
「フフ。簡単に云ってくれる…悪いが私はそう簡単な相手では無いぞ。」
完全に据わった目で、チュータツは静かに敵を見据える。
口角が僅かに上がった。絶対に負けはしないという気迫。
「試合、開始。」
双方の想いをのせて、ゴングが鳴る。
軍師。科学者。為政者。
チュータツには三つの顔がある。
どれも頭脳労働系の専門職で、お世辞にも手合わせしたいとは思えないラインナップだ。
むしろ実践を踏んでいるだけあって、頭脳戦ではチュータツのほうが上かもしれない。
/featherや/shadowなどの小細工は通用しないだろう。
「/thunder」
まず、ジャスタスは正攻法で動きを止めにかかった。
チュータツも同じく詠唱し、同じく電気を掌に貯めると、襲ってきた雷を迎え撃つ。
ぶつかりあった等しい威力の電流が互いを殺し、消え去る。
魔力も等しい。が、反応速度に若干の遅さが見える。
雷の名残を握りつぶすと、チュータツは白衣の内側から一封の薬包を取り出し、/windに乗せる。
恐らくは毒か、何か。風の方向は直進だが、粉は扇状に広がり、避けることは不可能だ。
ジャスタスは前腕で顔を守りながら距離を詰め、掌底で肺を狙って突いた。
吸気が気管を急に滑りぬける、息の止まりかける音。
三職に共通しているのは、どれにも身体能力は問われていないというところだ。
肉弾戦に関して言えば、ジャスタスに軍配が上がっているというのが一点。
チュータツに勝つのなら、真っ当にいくのが妥当だろう。というより、それ以外に攻める方法が見当たらない。
落とせたかどうか曖昧な手ごたえに、ジャスタスの赤い目が相手の姿を追う。
チュータツは体をふたつに折り曲げ、酸素を求めるように口が開いている。
「は…あ゛、」
よろり、と倒れそうになったところで息を吹き返し、激しく噎せる。
弱かったか。
ジャスタスは舌打ちをし、体の側面、肋骨に守られていないあたりにめいっぱい膝を入れた。
「…っ/fire、」
ガードもできないまま横に吹き飛びながら、チュータツの潰れた喉が辛うじて唱える。
真上に上がる花火から、空爆機のように火の玉が飛散した。
降ってきた残火を避けようとし、ジャスタスははたと
「/rain!」
さっきの粉薬が火薬だったことに気づいて叫ぶ。
硝煙の残る上空を雨雲が被い、ざあっと模造の通り雨が降り注ぎ、瞬く間に花火を消し止めた。
あれだけの量の火薬に火がつくかと思うとぞっとしない。
ジャスタスは先手を打てた自分を褒め千切りながら、攻撃態勢に移る。
地面がぬかるみだす前に勝負をつけるため
1m程遠くを這って逃げようとするチュータツの頚椎を潰しにいくと、
彼が横目に一瞬、嘲るように笑ったように見えた。
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