…vsジャスタス

page: 試合前01. 試合前02. 01. 02. 03. 04. 衣擦れの音。
ほどけていくリボン。
白くて華奢な指が、滑らかに動いて
どこまでも続く布をゆっくりと解いていく。
するする、するする。
女性の綺麗な手。

…いや、その指には見覚えがあった。
それはリボンではない。しかもそれは女性の手ではない。

「…うぉ!?」

チューヅはいきなり現実に引き戻され、びくりと体を引きつらせた。
昨日はそんな激しい動きをするとわき腹に鈍痛が走ったものだったが
なんの不快感もなく、回復したことを窺わせる。
彼が何気なく横を向くと、枕元の椅子に座っているジャスタスと目があった。
足首に巻いていた包帯を解いていたらしい。
伸びた包帯を手に持ったまま、ぼんやりとチューヅを見つめている。

「…やあ。」

「何が『やあ』だってんだよ!寝顔の観察とか趣味悪ぃぜこのハゲが。」

挨拶がてらにチューヅがなじるとジャスタスはお約束のように指を指し、
「ハゲじゃない。」と訂正した。
手が動いた拍子に、足にひっかかっていた包帯がするりと床にとぐろを巻く。
すると右足だけ胡坐をかくように座っていた足首が露になって
青く変色している部分があるのがチューヅの目に入った。

「お前、それ…」

「なんでもない!」

ジャスタスは座りなおして何事もなかった風を装おうとした。
が、今更遅い。
隠そうとする手をチューヅがしっかり握る。

「どうしたんだ。何だそのケガ。」

「だから、なんでもないって。」

「何でもなくってそんな腫れんのかてめーの足は!
 いいから見せやがれ。何があったんだよ!」

「離せよ!ほんとになんでもないんだ…
 やーめーろこのえっちスケベ変態!」

まるで子供のような言葉を並べ立てるジャスタスに
チューヅは「どうしたんだ。」と、厳しい声で鋭く問いつめる。
真剣な様子に押されたのか、渋っていたジャスタスも
しばしの間俯いて呟くように白状しだした。

「…前の試合で軽く捻った。」

「原因は。」

「軽いミスだ。大したことない。
 相手の攻撃に気をとられていたら段差があることに気づかず、つい…」

「注意力散漫、だな。」

チューヅはベッドの上で胡坐をかいて向き直った。
相手が強敵ならともかく、
昨日のジャスタスの午後の相手は
運だけで勝ちあがってきたような幼い少女で、
普通に考えれば楽勝で勝てる相手だったのだ。
彼はじっくりと相手を見据え、

「あのよ。お前、悩み事ねぇか。」

ジャスタスは黙っている。

「おかしいとは思ったぜ。そーゆーのけっこう顔に出るタイプだからよ。
 毒のことといい、今回のことといい、
 なんか昨日今日と妙に判断ミスが多いじゃねえか。
 どした。吐いちまえ。そんなんじゃ勝てやしねぇぞ。」

どうやら図星だったらしい。
チューヅの言い方がよかったのか、それとも心理的に限界が来ていたのだろうか。
ジャスタスは特に抵抗もせず、ぽつりと白状する。

「…昨日の午前中の相手だ。」

「イグジスとかいったか?」

頷き。

「ああ。そいつが、試合の後に僕をじっと見てたんだけどな。
 吸い込まれそうな青い目で…そのとき以来、止まないんだよ。」

頭の中の、声が。