それで、仕方なくもチュータツはギュニア杯に参加する運びとなったのである。
「規約はおろか、命を落とす危険性すら理解していないとは笑わせてくれるな。
貴サマは飼い主の所有物だということを解っているのか。
生きるも死ぬもあの女の許可を仰がなければならないというにどういうつもりだ。
迂闊に貴サマを手放したあの女にも非はあるが、そもそもの発端は貴サマの考え無しな行動だ!」
入れ知恵も受けられず、1対1で対面できる瞬間をチュータツはずっと狙っていた。
思考で勝負するならば、えんまより自分のほうが、圧倒的に有利だ。
自分の主張をざらっと見直して一応理屈は通っていることを確認すると、えんまもようやく理解が追いついたらしかった。
「…そうだね。」
長々と怒鳴られた中から、結論が抽出される。
「ぼくは、わるいことをしたんだとおもう。飼い主さんに。」
一度言葉を切り、そしてその次えんまの表情が
はじめて意志を帯びたように見えた。
「だけど、ぼくはもう約束やぶっちゃった。
だったら、いまかえったって、試合のあとかえったって、おなじことだろ。」
チューヅのために戦うことと飼い主のところに帰ることの間には、ある意味矛盾が無いのだ。
チームスラバヤの出した最後の選手として、降参するわけにはいかない。戦って負ける以外に帰る道はない。
飼い主を裏切ってまで来た大会だ。どうやら彼は、完全に悪役に徹するつもりらしい。
「だったら、ぼくはせめてチューとの約束だけはまもるよ。
チュータツさん、しょうぶしよう。たたかわないとぼく、ここに来たいみがないから。」
説得して降参させるつもりだったが、
えんまは明らかに負けるつもりで勝負を仕掛けてきた。
「貴、サマ」
「きみに倒されるまで、ぼくは反省なんかしないよ。
できるだろ。それはとてもかんたんなことだ。」
…挑発など、どこで覚えてきたのだろう。
「私も甘く見られたものだな。」
ふ、と。静かな吐息ともつかぬ笑いが漏れる。
論破することも可能ではあったが
戦闘と降伏を交換条件に出してくるようなやり方が
密かにチュータツの癪に触った。
「…良いだろう。望み通り我が足元に這い蹲らせてやる!」
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