ギュニア杯2日目午後:迷歌 vs えんま
投げたナイフはハンマーの側面を掠って戻ってきた。
武器の性質上、木槌の頭部がえんまの前面に常にあり、
盾の役割をはたしていて迷歌が攻撃を当てられる面積は少ない。
「ちぃ…っ」
迷歌が舌打ちすると、幸い、えんまが次の攻撃に移り
ハンマーを持つ手に力を込めた。
上にハンマーを持ち上げたとき、一瞬だが脇のガードが甘くなる。
最初から彼は、防御に無関心だ。
『彼の裏には、入れ知恵をしているやつがいます。
いわば、彼は操り人形のようなもので
言われたことをただ淡々とやっているだけにすぎません。』
再び、オオツノワタケの少年が迷歌の中で回想される。
彼の推理が正しいならば、
えんまが折角、いい防御になっていたハンマーを
すぐ真上に持ち上げてしまうのも頷ける。
おそらく、ハンマーを出したのも、道具を使う相手への
対抗策として吹き込まれた戦法なのだろう。
「隙ありっ!えいっ!」
迷歌は今度は両手のナイフを一度に投げた。
2つのナイフが平行線を描いてえんまを襲う。
振り上げたハンマーが頂点に達したときに
ナイフが両腕の付け根を裂いた。
それで少しは、相手の動きも淀むだろうと迷歌は踏んでいたのだが
間髪をいれずに大きな質量が迷歌を巻き込んで地面を叩いた。
痛みによる刺激などは、鈍感な彼には通用しない。
「ったぁ…」
逃げるタイミングがずれた所為で、迷歌は戻ってきたナイフを受け取り損ね、
その上足を擦り剥いてしまった。
取り損ねたナイフが1本転がっていって、その上にハンマーが落下した。
おそらくぺしゃんこになっていることだろう。
1本。
迷歌は思う。
起き上がろうとすると横に振られたハンマーが
今まさに鼻先を掠めようというときで
彼女は間一髪のところを身を伏せて避ける。
その間にちらりと盗み見ると
えんまの右の脇腹に、投げたもう1本のナイフを見つけた。
突き刺さったナイフが栓になって、出血はしていないが
傷はおそらく深いだろう。
一撃の威力で迷歌はえんまに遠く及ばないが、
今のところ傷を与えているのは迷歌のほうで、
彼女が受けたダメージは腹部とすりむいた膝のみ。
流石にわき腹が痛むのか、気を逸らすようにえんまは軽く頭を振った。
一瞬の角度の差で、ちょうど迷歌の位置から眉間が狙いやすくなる。
迷歌はにやりと唇を舐めると、
腰のベルトからナイフを手に取り
横目に小さく点滅する/starに気づく。
オオツノワタケの合図だった。
「…わかってるのだっ!」
「なにが?」
小さくつぶやいた迷歌に、えんまがきょとんと首を傾げた。
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