ギュニア杯2日目午後:迷歌 vs えんま

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「くれぐれも作戦通りにおねがいしますね。」

「しつこいのだ!」

肩の長さに揃えられた手入れのいいボブカットの上に
青いリボンの巻かれた白いシルクハットを乗せる。

「メイのことが信用できないのだ?年下のくせに生意気なのだ!
 さっさとベストを寄越すのだ。こんな服装じゃキマらないのだ。」

彼女は不機嫌な様子で、自分の後ろを従者のようにぴったりついてくる
オオツノワタケの少年から、小さくて赤い色をしたベストをひったくった。
クンパらしくも気の強そうな釣り目はさながらどこかの令嬢のようだったが
実際彼女は高貴な出というわけではなかったし、少年も従者ではない。

「ううん、信用してないわけじゃないです。
 メイさんは素直だから、こんな入れ知恵みたいなことは嫌いかなあっておもって。」

高飛車なテンションには慣れているのか、オオツノワタケはにっこりと微笑んで
心を痛めているんです、と胸に手を当ててみせる。
少々クラシックな軽装に身を包み、草の色と見まごうような緑の巻き毛をふわりとさせた
クンパとは対照的に穏やかな少年だ。

クンパの少女は腰に手を当ててくるりと振り向くと
少ししおらしく視線を落とすと

「当たり前なのだ。でも、メイは嘘つきじゃないのだ。
 言われたことはしっかりこなしてやる…行ってくるのだっ!」

アナウンスに合わせて、元気にグラウンドの中央に駆け出していく。

彼女の向かうラインには丁度同じく、反対側のコーナーから選手が歩いてくるところだった。
薄い青紫のオーガ。2m以上ある身長に並ぶと、クンパは必要以上に小さく見えた。
寝起きのように見える適当極まりない格好は、単純に彼が無頓着なだけだ。
ふたりが互いに位置につくと、オーガはへらりと薄っぺらく微笑んだ。

「こんにちは。」

「よろしく頼むのだ。」

クンパは挑戦的に顎を上げ
髪と同じ、紫の釣り目で睨み付ける。
彼女の自身を示すように、胸に輝く銀の蝶ネクタイがぴかりと光った。

「時間通りです。」

フランツが、眼鏡の奥から無言で双方の覚悟を確認する。
ゴングが鳴った。

「試合、開始。」

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赤コーナー:
飛湊迷歌 クンパ
身長:約153cm 体重:39s 
vs
青コーナー:
えんま オーガ
身長215cm 体重120kg
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「あとはなるようになる、と。」

バネじかけの玩具か何かのように
元気に相手に飛び掛っていくクンパの少女が
オオツノワタケのオペラグラスに映し出される。
かなり大柄な相手ではあるが、少女の動きに怯みはない。

「さあてと。お手並み拝見といきましょうか…えんまさん。」

彼は小ぶりの手帳を懐から取り出すと、待合室のベンチに腰掛け
試合の"観察"にとりかかった。