ギュニア杯2日目午後:迷歌 vs えんま

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飛びかかっていった迷歌の腹部を、えんまのストレートが狙う。
彼女は空中で体をくるりと反転させると、勢いでダメージを相殺した。
パワーは半減したのだろうが、大の男に殴られたくらいの威力が脇腹を襲い
魔法を詠唱しようとしたメイカの動きを妨げる。

「うぅっ…」

着地した後、体を丸めてうずくまる迷歌の上から、おそろしく平坦な声が降る。

「こうさん、しない?」

聞き取る前にも拳の影が迷歌の上でゆらりと動いて
それがぶつかってくる前に彼女は慌てて手だけで這って移動する。

「そしたらぼくもうなにもしないから。」

「試合をあきらめるなんてあり得ないのだ。馬鹿も休み休み言うのだ!/boomerangっ!」

迷歌は大きな声で言うと、腰のベルトに並べて提げたナイフを手にとり、投げた。
奇妙な形のそれは、成る程、見事な楕円を描いて飛んでいく。
計算どおり、えんまは正面からの攻撃は避けたが
戻ってくる軌道は予測できなかったようで、左肩の後ろを深く斬った。

「、…こまったな。」

彼は迷歌の手元に戻っていくブーメランを見て、悲しげに顔をゆがめた。
傷を抑える指の間に血が滲んでいく。それを眺めてもう一度ため息をつくと
えんまは道具を変えることにしたようだった。

「やっぱり、ジャスタスさんのゆうとおりだ。/hammer。」

虚空に魔力が凝縮して、大木槌が召還される。
手に取るとすぐにそれがしなうように振られ、迷歌の足元を攫った。

「きゃ…!」

ジャンプして避けると、今度は斜め上から地面を叩きにくる。
パンチだけでもあれだけ馬力があるのに、武器の力まで借りられたらひとたまりもない。

「これなら、どうだい!」

「煩いのだ!しないったらしないのだっ!」

ハンマーが真上に振り上げられたのを察して、迷歌は思い切って、しゃんと首を伸ばした。
そのまま打たれれば首を折られて一巻の終わりだ。
が、えんまは彼女のその動作にびくりと怯むと
攻撃を止め、腕への攻撃に切り替えようとする。
その隙を突いて、迷歌は再びナイフを投げた。
聞いていた通りの相手だ、彼女は思う。

『えんまさんに敵の体を破壊する才能があるのは認めましょう。
 でも、逆にいえば、それ以外のものは何もないんです。
 試合が始まったら、まず彼は相手を降参させることにこだわると思います。
 手加減の仕方をしらないので、まともに戦うと相手を殺してしまうんです。』

迷歌の頭の中で、オオツノワタケの少年が茶目っ気たっぷりにそう言った。

『攻撃は一撃すれば致命傷になりますが、それ故に、急所は絶対に狙ってきませんから
 むしろ体の機能を壊されないように気をつけてください。
 メイさんくらいの機動力があれば、十分避け切れます。
 あとはこちらから攻撃を仕掛けていけば良いだけです。』

それから、決して誘いに乗ってはいけないことだ。迷歌は冷静につとめながら反芻する。
「降参」という言葉を口にしてもいけない。
言った瞬間に黙らされ、降参扱いにされる。その作戦に昨日、クロメが一匹ハメられたらしい。
戦いはできるかぎり長引かせること。えんまは絶対に止めをさすような攻撃はできないのだから
確実に勝ちにいけるのは、技術のある迷歌の側だ。

『そうすればそうするだけ、
 相手をメイさんのペースに引き込めるというわけです。』