ギュニア杯2日目午後:スウィーティー vs 黒鋼刃
「あははははは!はぁはぁ…ふふっ」
ひとしきり笑い転げた後で、キャシィは仰向けにベッドに弾んだ。
ティーテーブルの上には食べ終わったケーキの皿がフォークと一緒に置いてある。
「ほんっと、おっかしぃわぁ〜!涙出ちゃう。」
黒鋼刃はベッドの淵に腰掛けたまま、少し首を傾げて彼女を見つめる。
彼女にとって、キャシィは不思議だ。
特に冗談を言ったわけでもないのによく笑う。
「あーっ、おっかしかったぁ…あ、そうだ。
ねぇえ、ひとつ聞いてもいーい?」
キャシィはふと思い出したように手を打つと、
ごろりと転がって枕に抱きついて黒鋼刃を見上げた。
「何ですか?」
好奇心を孕んだ丸い瞳が、クッションの下からぱちぱちと覗く。
黒鋼刃はきり、と座りなおして質問を受けた。
「黒ちゃんは、どーしてギュニア杯に出ようと思ったの?」
「え?」
尋ねられた内容が唐突だったのもさることながら
黒ちゃん、と呼ばれたことにも気をとられて、聞き返す。
キャシィは他意の無い笑い方をしながら
「ホラ、あなた優しいじゃない。
あんまりヒトを傷つけたり、殴ったり。そういうの好きそうに見えなくってさー。
アタシもギュニア杯は初めてじゃないからわかるんだけど…
この大会、暗殺者とかハンターとか多いからね。
黒ちゃんみたいな子は、あんまりいないの。ね、どうして?」
最初は黒ちゃんも、そんなヤクザ者のひとりとしか思ってなかったんだけど、と
彼女は付け加えた。
黒鋼刃は一瞬答えようとしたが、
まもなくして視線を遠くに飛ばし、考えこんでしまった。
「大層な理由ではありませんが…我が飼い主様に誘われて、でしょうか?」
「やぁねぇ、アタシに聞かないでよ。
そんな難しいこと聞いてるんじゃないんだし。戦うのは好き?」
「戦うのは… …試合!」
黒鋼刃の重さがなくなったせいでベッドのスプリングが大きく波打ち、
弾かれたキャシィが慌てて顔を上げると
黒鋼刃がわたわたと右往左往しているのが見える。
「大変だ、すっかり忘れていました!
あと5分で試合が始まってしまうというのに…っ
キャシィさん、ケーキご馳走さまでした。私はこれで失礼します。」
黒鋼刃は椅子に掛けたジャケットを丸めてひったくると
お辞儀と挨拶を同時に言い終えるが早いが
ドアを蹴破らんばかりに開いて、走っていってしまった。
「非常階段使ったほうが近いわよーん!」
遅れてキャシィが叫んだときには、
コーナーを曲がりきる尻尾がちらりと見えただけだった。
聞こえたのかどうかはわからないが、
彼女の俊足なら5分あればギリギリ間に合うだろう。
キャシィは面白い子、と呟くと、くすりと笑ってドアを閉めた。
BACK