ギュニア杯2日目午前:イグジス vs ジャスタス

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(…何?)

気配はある。そこに相手は居るはずだ。
だがそれもぼんやりとしたもので、位置が特定できない。
見失ったことを悟られないよう、首は動かさずに気配を探る。
一歩動くと、ざわりと空気の感触が移動した。

「/thunder!」

声だけがして、真上から雷が脳天を直撃する。
/smallを使っているなら、こんなに高くは跳べない筈だ。
焦げているところを続けて竜巻が襲い、リング端のフェンスに叩きつけられた。
これだけ大きな音がすれば、暗闇の中でも位置が分かってしまう。
足を庇う前に、イグジスは腕だけで這って転がった。
急所を狙ってきている。どうやらジャスタスは本気で勝ちに来たらしい。
今までの打撲とは訳が違ってきた。当たれば動けなくなる。カウントで落とされる。
二撃目。
案の定、さっきまで居た場所に/thunder が当てられたのが分かる。
幸い、ジャスタスは気配を読めるほどの手慣れではない。
耳を澄ますと浅い息遣いや、微かな衣擦れの音がする。
今は再び実体化したらしい。散漫だった気配はまとまりを帯び、ひとつの塊として感じられる。
じゃり、と土をにじる音でイグジスはジャスタスの位置を特定した。
相手を見失っているらしいジャスタスの顎に強力な蹴りを叩き込む。
初めの蹴りは避けられなかったらしいが、止めを刺そうとした途端にまた消える。
至近距離で、相手の気配が分散し、細かい破片となって
舞い上がるような軌道を描いたのが分かった。

(/feather…!)

謎が解けた。
咄嗟に/darkを解くと、真っ白な羽がイグジスの体を包むように舞っているのに気づく。

「ヤベ、」

/stormで羽毛を蹴散らして逃げようとしたイグジスだが、
ほぼ同時に実体化したジャスタスの手が、すんでのところで襟足の髪を捉える。

「終わりだ!/thunder!」

耳に一本の何かが突き抜けるような衝撃に突き倒されて、イグジスが倒れた。
二発目を構える相手の攻撃を避けようと足を踏んだが、
バランスがとれずに、よろよろとしゃがみ込む。
右耳からどろりと何かがあふれ出して
イグジスは耳に直接雷を打ち込まれたのだとそのとき解った。

「そんな生半可なテクでやり方で急所突くと、死ぬって…」

腰を下ろしていると、ゆっくりと近づいてくる相手の脚が見えた。
汗が頬を伝う。汗をかいたのは久しぶりだった。

「…必死だね。なりふり構わないって感じだ。
 どんな犠牲を払ってでも勝ちたいらしいね…」

「当然だろ。」

二本の脚はすぐ傍で止まり、首を狙って蹴り飛ばす。
首への痛みよりも耳に響く痛みに顔をしかめて見上げると
嫌味たっぷりに細められた赤い瞳が異様にぎらぎらしていた。
まるで勝つことよりも強さを求めることよりも
相手を貶めることが目的であるかのようだ。
こういう眼をする男がイグジスは嫌いだった。
だから最後の5秒間、じっとその眼の奥を見続ける。

「…じゃあ、君のその努力に免じて、望みを叶えてあげようか?」

片手をあげて審判を呼ぶと、イグジスは自嘲気味に降参を宣言する。
フランツが高らかに復唱する。

「イグジス選手の降参により、この勝負、ジャスタス選手の勝利とします。」

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「急に気色悪いな。何を考えている?」

勝ったにも拘らず解せなそうな表情で問うたジャスタスにイグジスは答えず
タオルで耳を拭いては笑いながら、自分のコーナーに戻っていった。

「…ギュニア杯、たっぷり楽しみな。」