ギュニア杯2日目午前:イグジス vs ジャスタス

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「戯言を抜かすな。不利になるのは君のほうだ。」

「戯言かどうか確かめてみたい?」

見えない地面に手を突こうと涙ぐましい努力を続けるジャスタスの近くに
イグジスはゆっくりと歩いていった。
今まで目を閉じていたイグジスと違い、彼はまだ暗闇に目が慣れない。
真っ暗闇に暗殺者と取り残されて平気で居られるものは居ないだろう。
理性に押し殺されながらも漏れ出てくる恐怖の匂いを感じ
イグジスはうっかり、これが試合だということを忘れそうになる。

「視界なんかなくても、俺には君の動きが見える…
 迂闊に動くと碌なことにならないよ。
 今だって右後方のガードががら空きだ。気をつけてないと、ほら…」

こうして後ろに居ることを仄めかすと、びくりと振り返り
服の端だけでも掴もうと足掻く。
ギャラリーのことまで意識するような思いやりは無いイグジスの所為で
いまや観客席まで闇の中。
この楽しみを分かち合えるのは、観客の中でもヴォルグやクロメなど夜目の利く者だけだ。

「…フフ、平気だよ…殺さない程度にしてやるからさぁ」

とん、と肩に手を置くと、ジャスタスは反射的な恐怖から後ろに蹴りを入れようと試みる。
脚をひょいと動かしてよけると、一本足になった相手の膝を軽く押して、転ばせてやる。
肩からしたたかにぶつかったのだろう。聞くに痛い呻きがイグジスの耳を擽った。

暗闇にしたのは、逆にジャスタスの頭をフル稼働させるため、というのが本当のところだった。
/team、/torch、/light…視界を確保できるどの技を使ったところで
それらは単品ではとても攻撃に使えるようなものではなく
むしろ自分の動きを相手に見せてしまうようなものだ。
頭を使えば使うほど、深みに嵌っていくことだろう。
暗闇の中で熟考は無用。鋭い勘だけが唯一の武器となる。

イグジスは闇雲に繰り出される悪あがきをひらりと避けながら、
時折痛めつけて恐怖心を煽ってやれば良かった。
十分に獲物が疲れ、自滅するまで
獲物の命を手の上に握る楽しみを味わうまでだ。

「いい加減、止めを刺したらどうだ。」

疲れてきたのか、動きをみせずにうずくまっているばかりの
ジャスタスの周りをぐるぐると回りながら、
イグジスが退屈してきた頃、押し殺した声でジャスタスが話しかけてきた。

「俺もそう思ってたとこ。
 …ひとりで遊んでてもつまんないし…君にはもう飽きたしね…」

イグジスは欠伸交じりに言うと
風も起こさず、静かに脚を振り上げる。
無防備な頚椎を目掛けて、割ってやろうと思った。

「…楽にしてやるよ。」

確実に急所めがけて脚が叩き込まれる。
空をきり、そして、地面に。

ジャスタスが――消えた。