ギュニア杯2日目午前:イグジス vs ジャスタス

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「…煩い。」

ムシチョウは寝言のようにつぶやくと、赤い飴玉をひとつ、口に含んだ。
待合室でうとうとするために早めに来たのだが、なにぶん歓声が煩くて眠れない。
ムシチョウらしからぬ緩慢な仕草で体を起こすと
一段と沸いたグラウンドのほうを見やる。

どうやら赤コーナーの選手は勝ったらしい。
仲間と思しきリヴリーにわっと群がられながら
ゲッコウヤグラの女性が宙を泳ぐようにして戻ってくる。
真っ黒なTシャツに、濃い藍色のジーンズ。青い髪も闇の中には紛れやすい。
すぐ横を通過しようと肩がぶつかろうと
生き物の居る気配を消し、壁と同化して立っているイグジスには誰も気づかない。
名前が呼ばれる。次はイグジスの番だ。

勝つ自信は当然のようにあった。
だがギュニア杯には殺してはいけない、という絶対のルールがある。
殺せば自分も出場資格を失い、共倒れだ。
暗殺のプロでもあるイグジスには、それが窮屈で仕方がない。

「止め刺せないのかよ…面倒。」

来たときに舐めだした飴玉がまだとけ残っていて
舌で転がすとふたつの砂糖の塊がカチンと音を立てた。

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屋外に出るのは久しぶりだった。
とりたてて晴れている日ではないが、眩しく感じる日差しに目を細める。
審判に促され、生まれつきの形も手伝ってぽってりと眠そうな瞳で前を見据える。
相手は僧形のピグミークローンだった。
包帯の巻かれた手が軽く上がって挨拶をする。布の色と比較できるくらい色白な手だ。
イグジスも負けないくらい日焼けとは縁遠く、お互いに黒っぽい服装をしているため
並ぶとモノクロの写真が合成されているようだった。
イグジスは挨拶を無視して、相手をじっと観察し続ける。
線は細く、イグジスよりもひ弱そうに見える。
特別鍛えている様が見受けられないところを見ると、
魔法で攻めてくることまでは予想がついた。
しかし…

「これは手強い。暗殺でも嗜んでいるようにお見受けするが?」

末尾に失笑にも似た音が篭っているこの喋り方は、どうにかならないのだろうか。
余裕なのか、気取っているだけなのか。
大概のリヴリーなら苛立ちを覚え、ペースを乱されたりもするのかもしれないが。

「だが、ここでは殺しの作法は通用しないからな。
 お手並み拝見できないのが残念だ。」

「俺も残念だよ。」

イグジスはゆっくりと、吐き出すように答える。
相手は彼の氷のような冷徹さを見くびりすぎている。
通心能力の人一倍長けた彼にとっては
相手の感情を感じること、それを手玉にとることすら容易い。

こうやって圧力をかけてくる奴ほど、自身は脆かったりするものである。

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赤コーナー:
イグジス ムシチョウ
身長:184cm 体重:52kg
vs
青コーナー:
ジャスタス ピグミークローン
177cm体重58kg
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「試合、開始。」