04. vs 毒飴
クロを突き飛ばし、後ろへ飛び退く。
球を模したジャックジョーカーの形状は、回転の軸がよくブレる。
気をつけなければいけないのは始終出っぱなしの光線。
だがそれも凶厄にとってはスリルにしかならない。
遠くから観察しても、予測不可能な軌道で、怨呪の島を破壊しまくっている。
さしずめ巨大ネズミ花火とでもいったところだろうか。
大小ふたつのボールをくっつけたような形のそれは、そう、
凶厄の興奮を呼び覚ます形。
「決めた。てめえはアルゴルだ。」
「はぁ!?」
危ねぇって。無理だって。
そんなラベルをぺったりと顔に貼りつけて凶厄を振り返ったクロに
中指を舌に擦り付けて見せ、
素早く凶厄は跳んでいった。
一番足場になりそうな首の付け根に飛び乗り、頭の部分に、ナタを刺す。
機械から血は吹き出ないが、
真っ黒なオイルが勢いよく噴出し、凶厄の頭から降りかかった。
彼はにたりとねばついた液体を舐めとり、
ナタの柄と、左手のオイル注入口との両方を掴んで力を込める。
動きやすく、しかも力の入っていない頭部は簡単に傾ぎ
ビームが三日月形に、島の地面を抉った。
足の下でジャックジョーカーの機体は、それこそ死の前の痙攣を迎えているようにがくがくと揺れる。
ビーム胞を発射している口の部分が地面を向き、土の中を延々と採掘しているからだ。
ひとりのブラックドッグが支えていられるのを遥かに超えた負荷が
みしりみしりと凶厄の骨身をきしませ、その痛みに彼は狂喜する。
「きょうやあああぁーっ!」
上下に揺れる視界と限界の中で、
クロがただならぬ様子の大声を発した。
張り裂けるような声。
何だ。
とっさに凶厄の注意がそれる。
「がーんばれー!」
「…。」
がんばれじゃねえ、ぶっころすぞ。
沈黙の中に、凶厄がこめたメッセージは間違いない。
腹立ちとかムカつきとかを越えて、もう刺してやる気で思わずナタを引き抜く。
と、両手でなんとか押さえ込んでいた力が左腕に襲い掛かり
砕けるような痛みを覚えると同時に地面に叩きつけられていた。
再び、回転が始まる。
体を起こすと、振り回されている脚部に
思い切り頭を殴打され、何トンあるか知らない体重に押しつぶされる前に
転げて逃げ出す。
「凶厄!」
「応援してる場合か…しね…」
近づいてきたクロを殺す気力も失い、赤く染まっていく目の前を見ているうちに
脇のほうにずるずる引きずられていくような感触を受ける。
「悪ィ。てめーに死なれちゃ困ると思ったからよぅ…
まぁ、俺がちょいっと片してくっから。」
脳味噌がミキサーにかけられたようにぐらぐらする。
とんでもなくハイだ。
「見てな。」
あれは攻撃じゃない。事故だ。
クロに歯が立つわけが無い。
口元が裂ける。凶厄は引き攣って笑う。
彼の体が蘇ったような速さで跳ね起きた。
走っていったクロの背中にとび蹴りを食らわせる。
転んだクロがジャックジョーカーの首の隙間に引っかかり、回転に巻き込まれていく。
銀色に光る機体の中に、黒い色のポイント。迷うことなく凶厄は蹴り飛ばす。
カンボジャクの弱点は、複雑な構造になった首の関節にある。
鳥類の中でも細い部類に属する首は
上下左右の回転に強く、じゃばらのような構造になっている。
外側に入り組んだ細かい骨の集合。
内側に主要な神経や血管。最奥に脊椎。
刃物や絞首でカンボジャクは殺せない。
だが、その首はとてもとても折れやすいのだ。
勢いつけて地面を滑っていった機体は
城壁に動きを封じられ
クロを挟んで柔軟性を失った首が折れる。
ビームの反動はえびぞりに仰け反って四方八方のものを焼き尽くしだし
そのうち自身の腹部にビームが直撃して。
凶厄は目を真っ赤に染めたまま、地面に大の字に横たわった。
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