04. vs 毒飴
「命乞いすんなら今のうちだぞ骸凶厄ぁ!」
骸凶厄。いかにもな名を持ったブラックドッグの男は、
長い前髪を鬱陶しげに掻いた。
石門の上に立ってオラオラと一人でテンションを上げている彼は
ゴキブリ、もといカマキリの青年、呼び名をクロと言う。
彼は漢だ。強い相手に当然血が騒ぐ。
凶厄にチャレンジすること数知れず
それはぶちのめされた回数でもあるのだが、生き長らえた数でもある。
だから怯まない。
「手前こそ性懲りもなく泣きに来たかゴキブリ野郎。」
クロは怒りに顔を赤らめて言い放つ。
「…ってめ!ゴキ様馬鹿にしやがったらぶっ殺…」
「ぶっ殺せた試しもねぇんだろ?」
紫煙を失笑と共に吐き出しながらクロの威勢をあしらう凶厄。
彼は島主では無いのだが彼の強さは誘蛾灯の如くモンスターを寄せ付ける。
「お前、毎度毎度本っ当それしか言わねぇな。そういう所が…」
そして勿論彼も嫌いではないから、戦慄に牙を剥いて笑みながら
腰の獲物を手を掛ける。
短くなったタバコが乾いた土の上に落ちて、消える。
「ママにそっくりだ。」
「許せねえええーっ」
普段ならば、一瞬のうちに戦いが始まり、
ブラックドッグが血の雨を降らせるところであったけれど。
今日に限って
そいつはやって来た。
ずしん。
雄叫びをあげ、飛びかかってくる軌道の途中でクロの姿は消えた。
代わりに ごぃん、と金属にぶち当たり、悶えるクロの声が聞こえる。
「ってえーな…おい、こんな魔法卑怯だぞコラ」
「俺じゃねーよ…何だこりゃあ。」
向こう側のクロに大声で呼びかけてから、凶厄はそれを見定める。
全長3メートル程度。
巨大な鉄の塊。カンボジャクの形にも見える。
ぴくりともしない。
「邪魔だな…」
こんなもののお陰ですっかり白けてしまった。
彼は忌々しげに足を突き、それを思い切り蹴りあげた。
・
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「あっ、あっ、貴方誰に喧嘩売って…」
その中でリラが青ざめていたのは言うまでもなく。
幸いマジックミラーになっている窓ガラスから、凶厄の不機嫌MAXな表情が伺える。
「凶厄さんちだよ!ぼくが行こうとおもったんだけど、ちょっとケガしちゃってさ。」
「面倒なのから叩いとけって寸法だな。」
「いいい嫌です絶対勝てっこないですってば!墓にされて終わっ、ふぎゃ!」
蹴られた機体がごろんと転がった。
カンボジャクの首を再現し、操縦席は回転しやすく設計されているのである。
「あーあ。着地下手だからいけねぇんだな。立てるか?」
ガツンガツンとコクピットは揺れる。
操縦桿にしがみついて衝撃に耐えるのがやっとだ。
ガン。
凶厄は何度も何度も、蹴ってきた。
傾いた機体に潰されそうになっているクロの声が煩い。
何だ何だと言っているところを見るに、どうやらこちらの正体はバレていないようだ。
ガン。
赤で攻撃。そんな言葉が頭をよぎる。
ガン。
ガン。
ガン。
「嗚呼もう!どうなっても知りませんからっ!」
レバーのてっぺんに付いた赤いボタンを、リラは強く握り締めた。
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