06. vs チュータツ
チュータツにもスラバヤにとっても八方塞で
進む道を失ってしまったかのような空気が続く。
しかしどう考えても、チュータツの結論は
「駄目です。」
議論、というより口論は
はじめの論点から離れてかなり遠いところまで来てしまったが
もうこの際、無茶を言って外聞が悪いだとか
そんなおせっかいはどうでも良かった。
ただ、核心さえ守れれば。
「リスクが大きすぎる。
私程の科学者ですら成しえなかった事を…
貴様等の道楽に付き合って、えんま君は生きて帰れるのか。
私はそんな気がしない。」
戦って死ぬにしろ、アカウントを消されるにしろ、
本人が望むと望まざるとに関わらず、えんまを死なせたくない。
死ぬかもしれないと思うと、今すぐにでも死んでしまうような気がする。
「ぼくはしなないよ。」
渋い顔で黙り込むチュータツに、えんまが言った。
彼は途端に理性を飛ばし、頭ごなしに叱りつける。
自分で自分の身も守れないわからずやを弾劾するにしても
きつすぎるような口調。
対して、ぼんやりと輪郭のない、シャボン玉のように中身の軽い言葉。
「黙っていろ!何を根拠に、」
「だって、チュータツさんがひとりになっちゃうだろ。」
沈黙。
チュータツの顔から血の気が引いていく。
「今、なんと云った。」
「だからね、ぼくはしなないんだよ。」
顔が真っ白に近くなった頃、
やっと彼はぎりっと歯を剥いて怒りを顕わにした。
よくもまあ細い脚からそんな力が出るものだ。
えんまを痛てっと言わせるくらいの威力で、思い切り彼を蹴り飛ばす。
「違う、その後だ!
もう一度云おうものなら貴様などゲル状にしてやるっ!さぁ云え!」
「うわ!ぼくそんな訳わかんないものにされたくないからぜったい言わない!」
「口答えするな云えといったら云ってしまえ!
こんな簡単なこともできないのか無能め!」
「いたいいたい忘れちゃったってば!わーすーれーたー!」
すっかり忘れられたスラバヤのメンバーはといえば、
いきなり態度の豹変したチュータツを見て呆気にとられている。
「いつもこうなのか。」
「さぁ…」
残忍でもない。冷酷さもない。
野放図に燃え盛る情熱しかない。
チュータツのいうように可能性すらないのだが
彼らの口から飛び出す言葉はまるで
世界への侵略者ではなくて、他愛もないことで争う子供のよう。
チューヅはその辺に散らばっていた紙の束を纏め、
「次の作戦でも考えようぜぇ。」
と言って、アジトの鍵を放り投げた。
オーッ!
ドルテが元気良く返事をした。
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