06. vs チュータツ

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「待て…世界、だと?」

ジャスタスが、ゆっくりと口を開いた。

「世界ってアレかお前、福原愛がよく狙ってる世界か。」

「ああ、WTOの頭文字の世界だな。」

「So,What?そのセカイがアタシタチに何の用アルノ?」

チュータツが眉間に痛みを感じたのは言うまでも無い。


「貴方達が、世界征服を企んでいる、という噂を聞いたんですよ。」


「てめーっ!
 何でそんなでっけー話になってんだよ!
 俺たちはGLL城を乗っ取りてぇだけだっつってんだろ!」

チューヅが部品を投げ捨て、脅威の跳躍力でチュータツの首もとに飛びつく。
ゆっさゆっさと白衣を揺さぶるが全く効果はないようで、
チュータツは長く長く、たなびくような息を吐いた。
それは私のほうが聞きたい、と。

「にゃんで?世界だとダメの?」

無邪気な声で質問したのはドルテ。
黄色い目をきょとんと丸め、恋人の顔を見つめる。
ジャスタスは軽く微笑みかけてから、

「世界と言っても、リヴリーアイランドは他のスペースにも通じているからな。
 チュータツ氏のヒーナにしろ、菜乃葉君の高町。
 知り合いのところだけでもざっと20くらいは上げられる。
 全部手に入れるとなると、これはほぼ不可能だ。」

その言葉にチュータツも腕組みをして、頷く。
いつのまにかチューヅは彼の手に引っつかまれており、
あえなく地面に落とされたようだ、腰を擦っている。

「全くだ。不可能だから止めろと云っている。
 さらに言うならGLLだって不可能だろう。
 この世界の象徴のような城なのだ、乗っ取るうちには
 リヴリーアイランド全土を手に入れるのと
 同等の労力を使わねばならぬに違いない。」

えんまが出し抜けに、ぽんと手を打った。
今の説明を彼がどのくらい理解できたかは分からないが、
ともかく絶妙なタイミングで平和な音で、場の緊張が一掃される。

「あっ、そうか、チュータツさんも、むかしヒーナのお城をのっとろうとして…」

言うまでも無いが、もちろん禁句である。

「き、貴様はすぐ余計なことを!」

「うん。
 だから、ぼくは、チュータツさんのゆうのは、ただしいとおもったんだ。」
 けど、ぼくらはともだちがいるから、もっとうまくいくんじゃないかな!」

眩しいくらいの笑みが喉に詰まって、チュータツは思わず顔をそらす。
皮肉で言っているならまだいい。
だが、100%の善意なんて、どうしたらいいか分からないではないか。
これはチュータツにとって、本当に余計だった。
食って掛かった勢いをどこにやっていいかわからないまま、
えんまが受け止めてくれることだけを信じ、彼の肩を叩いた。

「ひ、ひとを寂しい奴みたいに言って…!
 無策の凡愚が何人寄り集まったところで同じだろうが!」

「ほう、そうかね?」

ジャスタスの細い眉が、今度は100%の悪意を込めて、吊り上がった。

「失礼だが君は、僕等の成績を知っているのかな。」

普段よりも速度を落とし、優しそうな猫なで声は
小学生に住所を尋ねるときの口調だ。
チュータツはかっとなるのを押さえ、

「確かに今のところは無敗だろう。だが…」

明後日の方向を向いている話をに向き直らせたいのだろう。
チュータツの言葉にはじれったそうな影がさしている。
その言葉にドルテとチューヅが食いついた。

「Wait、待ッテ。アタシタチ勝たこと一度もnothing、デショ?」

「そうだよ。どうなってんだ、ジャスタス?」

全員の視線を一身に集めて満足そうに目を細め、
ジャスタスは十分に溜めの間を入れてからタネを明かしだす。

「宣伝くらいのことは、任せてくれよ。
 はじめのGLL門入り口のぶっつけ本番は抜きにしても、
 僕らはシルヴァーローズ、ボーイソプラノ、骸 凶厄の三組に関しては
 勝ったというデマを流してある。
 戦ったのは事実だし、証人も居ない。情報の出所だって分からないさ。」

「確かに。私も他所ではそう聞いてますね。」

保障する相槌。話は続いて

「名うての組織に喧嘩を売って制圧してる。
 そんなスラバヤに今更雑魚は楯突かないし、協力者だって見込めるかもしれない。
 さぁ、誰が無策の凡愚だって?民間団体にしてはまずまずの駆け出しだと思うがね。」

チュータツが口を挟む余地をびっちりシャットアウトし
皮肉をおまけに説明は終了したらしい。
気だるげに語尾を上げた語り口調が
彼の言うことなすことの例に漏れず、
チュータツの頭にカチンと響いたが、
言い返したくても、すぐには言い返せない。が、
調子付いているジャスタスの鼻をなんとか明かしてやりたくて、
チュータツはもごもごと反論した。

「とにかく…悪いことは言いませんがね…考え直すべきではないですか。
 事実無根のデマは確かに有効かもしれないが、いずれ嘘は晴れてしまうもので
 丸腰で戦闘機に立ち向かうようなものであるかと」

「何だよその、セントーキってのぁよ」

「ぐるぐる回って服を洗ってくれるやつでしょう」

「あー…洗濯機ではなく、だな…」

困ったことである。まぜっかえされては意味が解らなくなってしまう。
頭の悪い相手にえんまを任せたくない気持ちがいっそうつのるチュータツだが
その前に目の前の悪徳坊主を倒さなくては。

「でも、ぼくらには、まるごしがあるんでしょ。
 それでどーにかすればいいよ。チューのボロもあるし」

当のえんまもスラバヤの考えにはおおむね同意のようだ。
ジャスタスはもうチュータツなど敵ではないような顔をしている。