02. vs シルヴァーローズ
部屋の中ではえんまがアティスを壁に叩きつけておりました。
コンクリートでできているはずの壁がへこんでひび割れ、
凹みの中に倒れこんだ彼を再び、三度、打ち付けます。
アティスが動かなくなると、えんまはふらふらと後ずさり、アティスの前にぺたんと座り込みました。
「ね、生きてる・・アティスさん」
アティスもえんまも傷だらけでした。
ことにえんまののわき腹にはトライデントがざっくりと刺さっており、致命傷には至らないものの酷い痛手になっておりました。
彼はトライデントを引き抜き、足元に放り投げましてから、アティスに話しかけました。
ねぇ、と手を差し伸べると
「まだだ!」
アティスの血の目がかっと開き、そばに投げ捨てられていたトライデントをえんまの胸に向かって・・・ほとんど串刺しといってよろしいでしょう。
えんまは何か言おうとして、ごぽ、と血を吐き、そのまま後ろに倒れました。
動こうとしているのか、指先がひくりと動きましたが、そのほか体は全く動かなくなりました。
「あなたは運が良い・・・俺の伝説を見て死ねるのだからな。
これで終わりだ!/thunde・・・」
「ボス!」
クィントゥスが(ラヴィヌスに手伝ってもらって)アティスの部屋のドアを破壊した音でアティスはやっと手を止めました。
可哀想なケマリは破壊の限りを尽くされた部屋に愕然としておりましたが
倒れているオーガの胸に突き刺さったトライデント、それに悪魔のように馬乗りになったままケマリを見ているアティスを認めると
あわてて駆け寄って行って、彼の腰にしがみつきました。
「ボ、ボス・・何をやっているのです!
殺してしまうなんて、ましてやこんな子供に秘技を使うなんて、そんなことをしたらどんなことになるか・・・」
「落ち着けクィントゥス・・・」
アティスの目はまだギラギラと光ってはいましたけれども、少しずつ落ち着きを取り戻し
大きな・・・血まみれの手がそっと、クィントゥスの髪を撫でます。
「・・・まだ、使っていない・・・・」
「少し、ムキになりすぎたようだ・・部屋がボロボロになってしまった」
「・・ボロボロっていうか、ほとんど廃墟っていうか、な」
呆れ顔(ケンカの現場は見慣れているのでしょう)のラヴィヌス。
実に爽やかな笑みを向けます。
「あまり無茶はなさらないで下さい。ご自分ではなく、組織全体の利益も視野に入れて・・」
「はいはい、分かっている」
「それ、より」
「ん、何か言ったか?」
何か聞こえた気がしてアティスは振り向きましたが、二人の部下はきょとんとして首を振りました。
瓦礫ががらがらと崩れる音、そして
「アティスさぁん、まだ、こたえ、もらってないんだけどおぉっ」
立ち上がる重症人。
トライデントを腹から引き抜き、構えの出来ていないアティスの胸にぐっさりと投げつけ――
「なっ・・・!」
そのまま自分は気絶して彼を押し倒し――
「ボスウゥゥウゥウ!?」
相打ち、と申しましょうか。
クィントゥスとラヴィヌスの声がハモったり、アウガが部屋を飛び出したり。
ボスの心臓近くに伝説のトライデントが刺さったという凶悪犯罪が起こってしまったわけですから
シルヴァーローズの静かな本部は一時騒然と致したわけでありました。
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