02. vs シルヴァーローズ

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「アティスさああああん!」

狭い廊下に肩幅めいっぱい広げ、一匹のオーガがどたばた走ってくる。
場所は古びた廃ビル、に見えるがシルヴァーローズの社内であった。
シルヴァーローズは一応株式会社だから客は自由に入ってくること自体は問題ではない。
ただ彼の場合、要件を聞きに出てきたラヴィヌスを押しのけ、
一怪我までさせているから問題なのだ。
オーガは社長の名前を叫びながら、社長室のドアをもぎ取るようにして、
本当にもぎ取った。

「はぁ、ふぅ…ア、ティス、さん…」
「乱暴が過ぎますね、えんま君」

息をきらす客人にアティス、シルヴァーローズの社長はため息混じりに言った。
彼もオーガだ。
少し年上で、黒髪。革張りの椅子をキイと回しながら、珈琲を啜っている。

「ん、ごめんなさい。そんなことより、アティスさん。
 なんでうちに、ゆ…ゆう…?」
「融資の件かい」
「そ、夕日!」

もいだドアをそっと元の位置に立てかけ、えんまは執務机に寄りかかる。

「しってるってことは手紙、とどいたんだね?」
「読んでます。」
「じゃあなんで夕日してくれないんだい?
 いっぱいお金ほしいんだ、巨大ボロ作るからさ。
 ぼくたちねぇ、GLL乗っ取るんだよ。あっ、でもこれ秘密ね。そいで、そうだ、お金…」

要領を得ない説明を遮ってから、アティスは手紙の内容をざっと思い返す。
スラバヤから来た極秘の資金調達の申し出を、アティスは昨日断ったのだ。
用途は不明だったが、おおかた先日のロボット騒ぎの件から察するに
例の世界征服の戯言が理由だろう…
シルヴァーローズには、経済面でリヴリーアイランドを制するという目的がある。
アティスにしてみれば、スラバヤは邪魔者だった。

返答が纏まったので、彼は言いたいことは分かりましたと前置き、

「先日の事件で、お宅の目的は分かっていました。だから断った。
 我が社はGLL関係のチームも相手にしてましてね、兵器だとか。
 そこが占拠されてしまうと今の良好な関係が崩れて好ましくないのですよ。」
難しすぎる説明に、えんまは困って口を開けていた。

「要するに、敵を応援する気はないってことだ。お引取り願おう。」

だから簡単にまとめ、もう一度カップに口をつけた。

「だって、ぼく、アティスさんがうんってゆってくんないと
 かえっちゃいけないって…帰ったって、チューにおいだされちゃう。
 ねぇ、なんでだめ?」

アティスはゆっくりと首を振る。
うな垂れていたえんまは やおら顔を上げ、アティスをきっと見た。

「うんってゆなわいと、ぼうりょくに、うったえちゃうよ」

風を切る音がした。
続いて、乾いた音。アティスの掌に、えんまの拳がしっかりと握られていた。
驚いた顔。
スラバヤの周辺には、こんな粗野な拳をまともに受けられる者はいない。
だがアティスはオーガなのだ。えんまと同じ。

「やってご覧。できるものなら、ね」

アティスは大人の余裕で、優雅に口元を吊り上げた。