02. vs シルヴァーローズ

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顔、胸、肩、脇。狙って打ち込まれる拳をアティスはなんなく受け止めていく。
デスクを挟んで向かいから攻撃しているえんまは、困った表情を浮かべ、
いったん手を下ろしてからくるりと背を向けた。

「終わり、ですか?」

黙ってドアのほうに歩いていく背中には声をかけても返事は無く、
アティスは深々と椅子に腰掛けた。その時だった。

「とぉりゃあーっ!」

という、いささか間の抜けた掛声と共に、アティスの顔面に激痛が走る。
それがえんまの靴であり、助走をつけた跳び蹴りを
思い切り食らわされたのだと・・ようやく気づいたのは
椅子ごと後ろに倒れ、後頭部をしたたか打ったころだった。
続いて胸の上に倒れこんできたえんまの重みに止めをさされ、身動きのとれなくなるアティス。
腕や肩を踏んで立ちあがりながら、胸の上から声が降る。

「あいたた・・だいじょぶかい?」
「クレメンティス・・・」
「え?」

アティスは鼻のあたりを押さえながら、ゆらりと体を起こした。
クレメンティス、クレメンティス、と呟きながら、どんどん口の端が吊り上っていく。

「寛容はすばらしいことではありますが・・・
 ・・・・やっていいことと悪いことというものが、世の中にはあるんだ、えんま君!」

えんまが反応する間も置かず、鳩尾を殴られた。
一撃だけで口から血を吹く威力のパンチに、体を折って蹲る相手を
アティスは血まみれの顔面にぞっとするような笑みを浮かべて見下ろしている。
豹変したアティスに驚いたのか、何か聞き返そうとしているえんまを
アティスは髪の毛を掴んで立ち上がらせ、ぐい、と顔を近づける。
「私の顔を足蹴にした報いを受けてもらおう」
「あしげって、なんだい?」
今度はえんまの回し蹴りが、アティスの横腰に入った。
彼はデスクの上に倒れこみ、その上のコーヒーカップや書類をほとんどすべて落とした。

「これのこと?」

アティスの視界が赤く染まった。目にまで血が・・額に新しい傷が口を開いたようだった。
ぼんやりとした話口調に、怒りのボルテージが上がっていくのを感じる。

「ぼくらのはなし、うけてくれないからやったんだよ。もっとやるからね。
 さっきもゆったけど、暴力ふるっていいって、チューにゆわれてるんだから」
「可哀想に、自分がやっていることを君は」
こめかみの辺りで、何かが切れる音。
「何もわかっていないようだなァ!!!」

振り向いて裏拳を叩き込んだのと同時に、アティスの背中にまた衝撃が走った。