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トロフィーを片手に、周囲の注目を一身に浴びた台の上から下りてさえしまえば
表彰式の後というのは、なんだか物寂しいような、思ったよりもつまらないような気分がするもので
キャシィはてくてくと、ホテルへの道を歩いていた。
腕の中のトロフィーは、まだ観客の視線の名残を、銀色をした鏡のような表面に映していた。
優勝者に金色ではなくて、銀色のトロフィーが与えられるというのは
これがギュニア杯の予選だから仕方ないのだが。
2位と3位はトロフィーですらなく盾なのだから、そんなことで文句を言ってはいられない。
現に隣では、と彼女はこっそり黒鋼刃に目をやった。
傍らをあるく彼女は、恥ずかしそうな、それでいて満ち足りた表情のまま、
しっかりともらったそれを抱きしめている。
「お祝いをしましょう」
視線に気づいて目を合わせると、黒鋼刃はそう提案した。
こうしてみると、案外気さくそうな笑い方をする女性だと、キャシィは初めて気づく。
「私、料理に腕奮いますから。キャシィさん何が好きですか?材料買ってきますよ」
ヒールを履いた自分より、男みたいに背の高い彼女が
何故か敬語で、いっしょうけんめいに懐いてくれるのがなんだかおかしくて。
盾は持っていてあげるというと、彼女はついでに上着まで渡してきた。
「じゃあアタシ、オムライスがいいわん!フサムシにケセランパサランも入れて」
「ここで待ってて下さい。お代は割り勘ですよー!」
手を振って見送ると、勇んで走る後ろ姿が遠ざかる。
きょろきょろとあたりを見渡すとすぐ後ろにベンチがあった。
きっと、そこに座れることを見越してここで待たせたのだろう。
パキケフーズまでは少し距離があるというのに。
家でもお姉さんしていると聞いていたとおり、なんだかどこかで用意が良い。
キャシィは景品を抱え直して、のんびりと待つことにした。
…が、チャンピオンが一人きりになったのを、もちろんドルテが見逃すわけがない。
スタジアムを出てすぐ襲うつもりが、準チャンプが付き添うせいで今になってしまったが。
chance、と小さく思うと、ドルテはそろうりそろり、ベンチの脇の街頭へと飛び上る。
リングの外であることと、日が暮れてGLL城がふんわりライトアップされた瞬間に感嘆していたせいで
キャシィは忍び寄る影に全く気付かなかった。
「キャシィさん?」
たくさんのフサムシ、それにケセパにミミズ。
贅沢なものをたっぷり抱えて戻ってきた黒鋼刃が見たのは
誰も座っていないベンチだった。
とっぷり暮れた日の中で、街頭に白く照らされる座面が空しい。
「待っててって言ったのに…」
きょとんとして首を傾ぐその鼻に、なんだかモンスターの残り香のようなものが香ったのを
彼女はひとまず気に留めて、まずはホテルの部屋に急いだ。