page:
01.
02.
03.
04.
05.
動きが止まる。キャシィが脚を折り、蹲っている。
立ち上がろうとするが銃口を突き付けて尻もちをつかせる。
確実にやるなら額だ。しかし殺す気がないなら違う。するりと皮膚を滑らせる。
射出の震動が心臓に触れないように、肩に定める。そして撃った。
ドレスの化学繊維がチリチリと焼け、
キャシィのアクアブルーの瞳がはっとしたように大きさを増し、黒鋼刃は、
こんなに綺麗な上に信じられないほど強いなんてと幸福に思った。
――――ドン、と音がする。
―――――10!」
高らかに宣言したのはフランツの声だった。
白昼夢から改めて覚めたような気分だ。
壁に寄り掛かるキャシィはくたりと四肢を投げだして、
せっかく化粧をしているのに鬼気迫る表情で黒鋼刃を睨みつけている。
どくん、どくん、静かな頭の中で鼓動の音が響き、
もう逃げる必要はないのに何故かそのとき黒鋼刃は後ずさった。
キャシィの腕がひゅっと伸び、黒鋼刃に縋る。
「クロちゃん…!」
カウントが止まると同じタイミングで、
この振動を受けて、動ける筈がない。が、惰性だ。
完全には身体の利いていないキャシィが全体重をかけて圧し掛かってくる。
黒鋼刃のシャツを握り、首へ、髪へと上に登る。顔と顔が同じ高さにきて、額同士が激しくぶつかりあった。
「10!―――――
これは自分に向けてのカウントだと知ったとたん
9が数えられる前に、黒鋼刃は身体を起こす。ずきずきと額の内側にひどい痛みが走っていた。
ほとんど動けないキャシィは、指先の力だけでしがみついている。
今の彼女にはその力しかない。しがみついているだけだ。
黒鋼刃は、用を足さなくなったレールガンから手を離し、
状況を打開すべく、水鉄砲のホルスターに指を向けた。
(…無い!?)
指先が、必死に腰を探る。が、むやみな動きはもつれあうばかりで何物も探し当てる気配はない。
視線を動かして目視しようとしたそのとき、キャシィが探し物の水鉄砲を黒鋼刃に向けていた。
「これをお探しかしらん?」と、まるでそう言っているかのように。
その距離、目の先10センチ。
「うわあっ」
あっけない、あまりにもあっけなさすぎる。
切り札とも思っていなかった武器に、それも自分の武器に、視界を塞がれるとは。
見えない間、咄嗟、黒鋼刃は顔に両手をやった。
隙をキャシィは逃さなかった。どこにだろう、多分脛に、ガツンと与えられた一撃だ。
特に激しい痛みではなかったが、受身がとれなかったせいで、頭をしたたかに打ちつける。
それで身体の機能が停止する。
どくん、どくん。呼吸の音。噎せかえるような、汗と地面の匂い。
起き上がらなければ。起き上がらなければ…