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「ぐ…」
腕の下から、キャシィの呻きが漏れる。
勢いと重さと黒鋼刃の力のかかった本体が背骨に直撃していたならば致命傷は確実だ。
「や、る…わ、ね…」
キャシィはすんでのところで、両腕で銃を支え上げていた。
体を直角に折り曲げ、なおも話せるということは、身体的損傷にまでは至っていないのだろう。
一段と強く、体重を乗せると、押し返してきたキャシィが見上げる。
歯を食いしばった口元にはどことなく笑みが浮かんでいた。
優しすぎる。
彼女がかつてそう評した黒鋼刃の行動原則から見ればこの攻撃性はかけ離れたものだった。
それが嬉しかったのだろうか。
キャシィは一気に腕に力を込めると、銃を投げ飛ばした。
黒鋼刃は即座に屈んで、銃につられて動きの鈍った向こう脛に蹴りを叩き込む。
しかし彼女の脚はびくともせず、しかも蹴られた片足で立ったまま、
肩で黒鋼刃を突き飛ばした。その頑丈さに黒鋼刃のほうがひるむ。
「5秒待つわ。武器を取って。」
膝をブレーキに、武器の横にスライディングしてグリップを掴むまで
一つの流れで行うと、
5本の指をひらひらさせて、意図を見透かしたようにキャシィが言った。
本心か、皮肉ととるべきか。黒鋼刃はためらいがちに銃を握り直す。
「後悔しませんね?」
「正々堂々やりましょ。その子も含めてクロちゃんの一部よん。
それとも、アタシが滅多に武器を持たない理由を聞いたら納得するかしらん?」
残っている指は残り1本しか残っていない。
理由を聞く前に、黒鋼刃は大銃に指をかけていた。
彼女が動いたら撃つ気でいた。飛び道具を使ったとしても、キャシィとは多分互角だ。
「武器がアタシの体についていけないからだわ!」
最後の一本の指がカウントし終わったとき、その手は黒鋼刃を殴打しようと狙う拳へと早変わりする。
キャシィは眉をきりりと引き締め、弾丸さながらに向かってきた。
大銃ではこのスピードに追い付けるはずはない。
黒鋼刃は左腰のホルスターからいつもの水鉄砲を抜き、応戦するが
相手もそれが水鉄砲なのを知っていて、当たることを恐れない。
握った手を額に翳して頭を守りつつしゃがみ、体勢を低くしたまま距離を詰める。
「せえええええいっ!」
視界から卵色の塊が消え、上を向けば彼女がそこに居た。
斜めの軌道を描いて落ちてきた、と思った時にはヒールはもう黒鋼刃の頭を直撃している。
蹴られた方向と同じ向きに首を回してダメージを流したのは反射で
急所を外れていたのも奇跡的としか言いようがなかった。
武器はいらない。その言葉の意味は、考えるまでもなく黒鋼刃の体に教えられた。
スピード。パワー。テクニック。キャシィの体自身が彼女の武器だ。