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07.
解析01.
解析02.
解析03.
2匹のクロメが立ち去った後
ベッドの横の床で、チューヅとリラは折り重なって倒れていた。
う、と低い声を上げ、山が僅かに揺れる。
上になっていたチューヅがよろよろと腕を突いて、肩で大きく息をついた。
「…負けたのか。」
「クロメさん曰わく、『戦線離脱につき敗退』だそうで。」
チューヅがダウンした後、リラは最後の力を振り絞って彼に近づき、アジトからワープした。
それで全てだ。スウィーティーは審判を下し
なお殴りかかろうとするソンフィを宥め
最後に2匹に礼を言い、楽しかったと加えて部屋を出ていった。
「あ、クロメさんというのは雄の方で~」などとどうでも良い情報を付け加える彼女をチューヅの呟きが遮る。
「…こんだけ戦えりゃ、初戦敗退なんかして無かったかもな。」
半人前2匹で、強敵と渡り合ったのだ。
彼は拳を握り、床に叩きつけた。
まだ動ける。あれだけ戦った後でも余力がある。嬉しくなった。
「俺やっぱ実力派かもしんねー!」
「馬鹿仰い。」
冷たい突っ込みにも関わらず、チューヅはがばりと立ち上がり、ひとりで雄叫びを上げる。
「試合なんてよ、要領の要素がでけぇんだ。
弱い奴でも勝ち上がれるし、強ぇのだって負けるときゃ負ける。
こんな勝ちで満足してんなら黒猫なんかいっくらでも勝たしといてやらぁ!」
どうでも良くなったのか、リラは膝の間に頭を垂れ、チューヅは振り上げた拳をペタリと地面に転がして黙りこんだ。
2人とも疲れており、悔しがる気すらなかった。
「…少し気になったのですが、」
ややあって、リラのくぐもった声が沈黙を割る。
「雄のクロメさん…」
「俺達が死なねぇようにしてたな。」
チューヅもそのことには気づいていて、相槌を打つ。
場外乱闘のルールに、殺傷禁止は含まれていない…にも関わらず、敵の安否を始終気にしていた理由は何なのか。
「勝負後もそうでした。飛び入り参加の私を傷つけても意味がないと言って。」
「ソンフィとか言ったか。あの女に主導権を握らせちゃいるが、
実際手玉に取ってんのは男の方だ。最初から、俺達を倒すなんてのぁ、口実に過ぎねぇって訳だ。」
よっこらせ、と声をかけ、チューヅは体を横たえる。
「何考えてやがる。」
同じ頃、全く同じ言葉をソンフィも吐いていた。
「言ったよな、てめぇは観客に徹するって。」
スウィーティーは感知せず、先に立って廊下を歩いていく。
反対方向から廊下を歩いてきた見知らぬオオツノワタケがすれ違いざま、「どうも」と言った。
スウィーティーは「いえいえ」と返し、何事も無かったように通り過ぎる。
「誰だよアイツ!」
「実行委員の仲間さ。」
ソンフィが噛みつくと、スウィーティーはさらりと言った。
角砂糖を砕くよりあっさりした言い口だった。
「あんなガキ、会場に居なかったぞ!大体何でそんなんがてめぇと…」
「言ったダロウ。私は面白いことが好きなのさ。」
前を歩いていた彼は、そこで初めて足を止め、ソンフィに向きなおる。
目に厚く掛った前髪が表情も真意も隠し、怪しさしか読み取らせない。
「これ以上勘ぐるなら君の出場資格をタダチにハクダツして料金未払いとして通報し
宿泊費、食費、器物の弁償その他モロモロを全額コチラに支払ってもらうのだけど?」
スウィーティーの不気味に白い指先が、ソンフィの鼻先に突きつけられた。
雫型に尖った、美しい爪だった。
「もしくは私達のことは忘れてキブン良ク去ってくれるか。」
三日月型のにやにや笑いが、焦点のぼけたソンフィの視界にダブって見える。
端麗な言葉に包まれてはいるが、彼の言っている内容自体は笑えるようなものではない。
狡猾で、粗野な、脅し。
「…これ以上俺を煩わせねェってんなら、それで手ェ打ってやる。」
ソンフィはいまいましげに、ホテルの赤い絨毯に唾を吐き捨てた。
彼女は今、仇討をする以前と同じくらいに機嫌が傾いていた。
もうこれ以上厄病神に関わっていたくは無かった。
燃えるような瞳で相手を拒絶する。
自分が本気で気分を損ねる前に。
「解ったら失せろ!」
スウィーティーはにたりと大きな笑みを湛えると
役者がカーテンコールでするような優雅な礼と共に、その場を去っていった。