16. in ロイヤルフェニックス

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操縦席から身を反転させるジャスタスに、天井から降ってきたネタツザルは
釣り上がった目をいっそう細める。
所々擦れたジーンズに、赤と黒のストライプ入りのシャツ。
相手は栗色の髪をくるくる肩に遊ばせたどこにでもいそうな青年だったが
ジャスタスは彼の姿にひどく狼狽していた。
柔らかな物腰に似合わず、その手に握られているのはひと振りの大きな鎌で
あまつさえじりじり距離を詰めてくるのだから物騒だ。

「まぁ久しぶりなんやし落ちついてぇな」

「みっ 密室で殺し屋とふたりきりなんだぞ!これが落ちついていられるか!」

そうだ、ジャスタスは昔確かに、この男に狙われたことがあったのだ。
仕事の邪魔だとかいう理由で、理不尽にもジャスタスを殺そうとした
ファミーラ王国きっての殺し屋。
音も立てずに忍び寄りる狩りはそこらの蜘蛛より上手いと評判で、
金さえ積めばどんな仕事でもやってのけるという。
そんな敵を相手に、一介の店主にできることなどそう多くはなく
前に生き延びることが叶ったのも仲間の協力と運あってのことであった。
無論、二度目の対面となれば運も尽きるというものだろうが。

片手でレバーを握りながらも膝の笑っているジャスタスは
殺し屋にしてみればいいカモだっただろうが
緋夜輝は鎌をくるりと回して肩に担ぎ、攻撃の手を休め、言った。

「ちゃうちゃう。わいな、今回は殺しの仕事やないねんて。
 あんさんとちょいと話がしたくて来たんや」

「なんだと珍しい」

「ははは、払うもんきっちり払ってもろたら、どんなアホでもやったるわ。
 そこんとこは、あんさんとも同類やろ?」

彼ほどの腕を持っておきながら交渉役に当てられるなんて
アサシンとして不本意もいいところだろうが
それでも請け負うのが拝金主義者の緋夜輝である……
とすると、雇い主はかなり金を積んだに違いない。
よほど判断力が無い見栄っ張りか、
もしくは雇うと言えば緋夜輝くらいのランクの者なのが”当たり前”のセレブか。

「……GLLの利権者にでも雇われたか。君ほどの殺し屋が情けない」

ジャスタスは軽蔑の眼差しを向けたが、彼も他人のことを言えた立場ではなかった。
緋夜輝は動じず、にやりと口角を上げる。

「流石、話が早い。
 雇い主は言えへんけど、その通りや。
 残念ながら、あんさん達の計画はここで終いにしてもらう」

「どうしろって言うんだ。着陸するか?」

ジャスタスは諦めた風を装いながら、ちらりと計器を盗み見た。
GLLのセキュリティシステムが狂うまであと少しだ。

「まぁ待ちぃな。着陸はさせへんで。
 あんさんが唯のおとりなのは、とっくのとうに割れてんねん。
 このまま着陸したら城門前で騒ぎが起きて、その間に実働部隊に門突破されて
 結局あんさんの思う壺やないの。
 ……それに、ただ中止させるだけってのは、おもろないやろ?」

緋夜輝は喉で笑いを押し殺しながら、構想を次々にを言い当ててみせた。
全て当たっている。ジャスタスの予想通り、リラがリークしたに間違いなかった。
レバーを握り、高度を保つので精一杯のジャスタスをよそに
緋夜輝はコンソールに歩み寄り、ずらりと並ぶボタンに目を通す。
ふむ、と彼は勿体ぶって鼻を鳴らし

「操縦はそのままで頼むで。
 今、怪物の森の上やろ。そしたら、あと2分くらい、城門上空に到着や。
 あんさんには、そこで城門前で計画のこと洗いざらい自白してもらおか。
 実行犯の名前、島名、目的……運営に聞かれたらアカウント削除間違い無しの謝罪文、
 一字一句きっちり読み上げて貰うで。運転も自白も、ちょっとでも違ったら首飛ばすからな。

 さあて……城門前に降りるにはどうすればええのか、教えてくれへん?」