ギュニア杯初日試合終了

page: 01.02.03.
「ここまで来れば大丈夫だろう。」

マハラショップの裏まで来ると、喧嘩の声はかなり小さくなっていた。
黒鋼刃はやっと安心してカンボジャクの手を離す。

「あ、有難う御座います…」

「血の気の多いのがひしめいてるからな。気をつけなさい。」

カンボジャクはぺこりとお辞儀をして、尊敬の眼差しで黒鋼刃を見上げる。
感じの良い女の子だ。

「あっ、あの、私、リラって言います…またお会いできたら、是非。」

「私は黒鋼刃。またどこかで。」

名前を聞いて満足したようで、リラはにっこり微笑むと
夕暮れの景色に紛れていった。
ぱたぱた、跳ねるようなサンダルの音が遠くなる。

「優しいのねん。」

リラの背中を見送っていた黒鋼刃の肩を、誰かの手がそっと触れた。
それはぱっちりした目も美しいパキケの女性で、
明確な意志のある笑みを口元に浮かべている。
夕日に美しく染まった金髪は透きとおって、きらきら輝いている。
いつからつけてきていたのだろう。
黒鋼刃は驚き身構えたが、パキケの口調には毒が無く、安心して向き直った。

「絡まれてる子助けてあげちゃうなんて、カッコイイじゃない?」

「いえ、当然のことをしたまでですよ。」

黒鋼刃が照れると、パキケは手を差し出し

「キャシイよ。黒鋼刃ちゃんみたいな男気のある子と戦いたくて来たの。ヨロシク。」

よろしく。
黒鋼刃も手をとると、白くて細い手とは裏腹に、力強い握力が握り返してくる。

「これから夕食に行こうかと思ってるんだけど、一緒にどぉ?
 ギュニア杯に知り合いが居ないもんだからさ、
 できれば誰かと一緒に食べたいなって思ってるんだけど。」

「是非…あ、」

同意しようとした瞬間、黒鋼刃は手に持った籠のずしりとした重みを思い出した。
夕食時に被らないようにと思っていたはずなのに、ついリラにかまけて遅れてしまった。
首をかしげたキャシィに、彼は申し訳なさそうに頭を下げる。

「嬉しいお話ですが、用事を控えてるものですから。
 近いうち、お手合わせできると良いですね。」

「フフ、残念。それじゃ、また明日、会場でね。」

「はい。では、会場で。」

黒鋼刃は踵を返し、ホテルへの道を急ぎ足で向かい始める。

「絶対勝ち残ってよー、未来のお相手ちゃん!」

背後ではよく響く高い声が広場にこだましていた。
空はもう藍色だ。