ギュニア杯初日午前:えんま vs ソンフィ
グラウンドの両端から選手が出てきて、真ん中で鉢合わせする。
青コーナーからはえんまが。
赤コーナーから出てきたのは黒いロングコートに身を包んだ、クロメの少女がそれぞれ歩いてくる。
曲線を描く体の線は、若々しくしなやかに細い。
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赤コーナー:
ソンフィ クロメ
身長173cm 体重49kg
vs
青コーナー:
えんま オーガ
身長215cm 体重120kg
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「クロメ、性別は女。銃を持っているな、あれは…リボルバーかよ。何考えてるんだ。」
銃はやや古いがシンプルなごついもの。取り立てて珍しい型ではないが、
弾数が少ないのは勢いの要求されるタイマン勝負には向いていない。
撃つより鈍器として使った方が余程優秀だろう。かといってサポートで使うような持ち方もしていない。
よく使い込まれた金属特有の、燻したような光沢。ドルテが声を上げる。
「アイツ知っテル!こないだペケの獲物横取りあいしたの奴。色んな弾ぶつけてきて恐かたの。」
ぎゅっと抱きついてくるので、頭を撫でてやりながら、ジャスタスはふむ、と首を捻る。
「成る程な。すると、弾丸ではなく魔法を打ち出すための銃か。
命中率は良さそうだが、威力はピンポイントでしかない、と。」
「えんまはガマンできるカナア?」
ふたりはにやりと微笑みあうと、再びグラウンドの遠くに目をやった。
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「こんにちは。」
えんまが微笑む。
紫の左目がぎらりとえんまを睨み上げる。右目は包帯に巻かれていて見えない。
「ぼくね、ぜったいにかちなさいって、相棒にゆわれてるんだけど。
だから、きみにはこうさんしてほしいなっておもうんだけど。」
悪気のないことを強調するような言い草が、ここでは敵意を増長させるだけだということに
えんまは全く気付いていない。
ソンフィは返事をせずに、ぎり、と奥歯をかみしめた。
「試合、開始。」
フランツがよく響く声で宣言する。
が、ふたりの選手はいきなり飛びかかりあったりせずに、じっと見合った。
さあ…どんな魔法を使う。
えんまの動きに合わせてソンフィは防御体制を取った。
が、動いたのは脚だった。
足もとのラインは大股で一歩くらいの間合いがとられていたはずだが、
いかんせんリーチが違う。
ソンフィは前方に倒れ、相手に身を預ける格好になった。
接近戦に持ち込む気らしい。
そうはいくかと腕を相手の腹部に、
殴りつけるようにに押し当てて引き金を引いた。
手応えはあった。が、同時に肩に凄まじい痛みが肩に叩きこまれる。
「ぐ…!」
体が離れる。
ソンフィは自力で立ったかと思われたが、肩を押さえて蹲る。
えんまのほうでも口から唾液混じりの血が溢れ、半ば驚きつつ袖で拭う。
血の吐きかたを知らないあたり、喧嘩慣れしていない相手だと、ソンフィは悟る。
「いたいよね。ぼくもいたいよ。
だから、はやくこうさんしてほしいんだけど。」
「そう言われてする奴ァいねェよ。」
壊れた右肩を気にしながら、ソンフィも吐き捨てる。
利き腕だ。まさか一撃で壊されるとは、彼女も思わなかったのだろう。
銃を左に持ちかえ、小さく揺すってみる。大丈夫だ。
えんまはソンフィの準備ができるのを、じっと待っていた。
「力づくで言わせてみやがれッ!風弾!」
銃口から飛び出した弾はえんまの足元に当たり、そこから巻き起こった竜巻で
えんまは吹き飛ばされはしなかったものの動きが止まり
その隙に間合いをとられてしまう。これで振り出しだ。
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