ギュニア杯:招待状

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「無料だと!?」

そうしてチケットがスラバヤに持ち込まれ、えんまとリラにその旨を説明していると、
真っ先に反応したのはどこからともなくやってきたジャスタスだった。

「…呼んでねぇし。」

「固いこと言うなって。
 で、参加費も登録料もオプション料金も、ほんとにほんとに要らないんだな?」

膝にがくりと手をついて、
えんまに「こんにちは」と挨拶されても息を整えるのに忙しそうな様子だ。
よっぽど急いで駆けつけたらしい。何かを企む暇もなかったことだろう。
チューヅは一緒に渡されたパンフレットで軽く地面を叩き、

「おう。パス持ってねーとホテルの外は歩けねーし、
 負けたら強制的にチェックアウトされるっていう条件付きだけどな。
 GLLっつっても会場は樹樹の私有地だから、規制が甘いんだろ。」

その丸まったパンフレットを、リラがちょっと摘む。

「GLLに敷地をお持ちだなんて、金持ちのやることは違いますね…
 あら、一日二食しか付いてないなんて何考えてるのかしら。」

「大食らいも大概にしたまえ。
 いいかね、ワイズウッドの14階と15階を貸し切って
 その全員が2日目で敗退したとしてもだぞ、総額…駄目だ、動悸が…」

混乱するのも無理はない。
こんなうまい話を聞いて、まともだと思うリヴリーはいないだろう。
もちろんこの話が来たときは、チューヅも腰を抜かしたわけだが
そんなことはおくびにも出さず、彼は得意げに片膝を叩く。

「ばーか、何がどうだろうと出るしかねーだろ!
 いくぜ、優勝!」

そしてごう、と拳を天に突き上げた。
決まった。そう彼は思ったに違いない。
だが、たった一人で燃え上がるチューヅの後を
ついていこうとする者はおらず、
リラが鬱陶しそうに彼を見つめて言う。

「頑張って下さいね。」

「…姉御は?」

「飼い主の同意書が必要なんでしょう。
 でしたら私はハナっから参加できる訳も御座いません。
 嗚呼残念。お土産よろしく。」

ひらひらと振られる袖に、
がくりとチューヅが肩を落とす。
飼い主の承諾は、GLLに入るための前提条件だ。
飼い主が居ないということは何一つ身分証明がされていないことに等しい。
モンスターもそうだ。
そこでチューヅははたと気づいた。
もしジャスタスがドルテの身を案じて島に残りたいと言ったら――
心配になって目をやると、ジャスタスも頷きはしたものの、眉間にしわが寄っている。

「ここでいくつか伏石を置いておくのも手だろう。
 僕も興味が無いわけではないが…ある程度の善戦は期待できるんだろうな。
 すぐ負けてとんぼ返りになってしまったら、何の意味もないぞ。」

「確かに。貴方がたじゃちょっと心許ないですねぇ…。」

気が無いながらリラも同意する。
いくら半年ほど戦闘を嗜んだとはいえ
チームスラバヤは素人の集団だ。
大会に出場するだろう他のハンターや格闘家との戦いを
ポテンシャルと若さだけで乗り切れるとは言い難い。

「そりゃ大丈夫だ。切り札があっからよ…なっ、えんま!」

チューヅは胸を叩くと自信満々で振り向く。
ふいと元気に顔を上げた先には、
タンポポの綿毛――と、それを追っているえんまの姿。

「…え・ん・ま。」

「え?なに?」

「聞いてろよ!…はぁ、俺らがGLLの強さ比べ大会に出るって話だよ。」

「へぇー。ぼくも?」

「ったりめーだろが!切り札が居ねぇと困んだよ!」

大丈夫なんだろうかと不安げな視線を背中に感じたが、
チューヅは強引にチケットと書類をえんまに押し付け、

「とにかくだ。円に頼んで、ここに名前書いてもらえ。わかったな。」

えんまは手の中の書類を何度か回して眺めると
しばらくして「うん!」と素直な返事を返した。