ギュニア杯2日目午前:フレディオ vs キャシイ

page: 01.02.03.
相手はもうグラウンドに出てきていた。
スナイロユンク種で、キャシイよりずっと小さい。
利発そうな目をした、元気な子供だ。
空色の髪の毛をくしゃっとさせて、あどけなくにこにこしている。

『赤コーナー、フレディオ選手。』

フランツが淡々と読み上げる。
キャシイは抜け目無く敵に観察の目を向けながら、ブーツの編み上げを結びなおす。
ブーツ。戦いの場には装飾的すぎる、ヒールの高いものだ。

「あっれー?ここって武道大会の場所だよネェ。
 なんだかダンスパーティーでも始まっちゃいそうなフインキ。」

フレディオが人懐っこく茶化した。
シャツに短パンという軽装な彼女に比べ、パニエで広げたドレスを纏ったキャシイは
服装からして既に不利になっているようである。
武器にはならなそうな、宝石つきのステッキまで持って
その姿はまるで妖精である。

「着替えてくるまで待っててあげてもいーんだよ、オヒメサマ。
 ハンデのある相手に勝ったって、つまんないしサ!」

「着替え?冗談止めてよねん。」

揶揄には慣れているのか、キャシイは涼しげな顔で答える。

「これがハンデじゃないってこと、教えてあげるわ。」

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赤コーナー:
フレディオ スナイロユンク
身長:145cm 体重:37kg
vs
青コーナー:
キャシィ=キャロライン パキケ
身長:167cm 体重:49kg
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「試合、開始。」




ゴングが鳴る。
一瞬出方を判断し、襲い掛かるタイミングを決めたのは双方とも同時だった。
キャシィは片手に持ったステッキでバランスをとりながら、
まずは軽く脚払いをかけ、ペースを崩そうとする。
短いスカートの中から白い脚が繰り出されると、いち早くそれを確認してフレディオが高く跳躍した。

ドレスを着たリヴリーは一般的に魔法使いだといわれている。
魔法は動きが少なくて済むし、きらびやかな装飾は見ている側の集中を削ぐ効果があるからだ。
フレディオも、キャシィが魔法使いだと踏んだのかもしれない。
距離をとるため、リングの外側のフェンスを蹴ってさらに高度を上げる。

「撃ち落してやるわよん!」

「できるかなっ!」

キャシィが若干大げさな仕草でステッキを突き出すと
フレディオは心底楽しそうに叫びながら、その腕にとび蹴りを仕掛けてきた。
しかしキャシィに魔法で攻めるつもりは毛頭無く、接近戦に持ち込むのが狙いだった。
ステッキを投げ捨てて蹴りこんできた脚を絡めとり
相手の勢いを利用して地面に叩きつける。

「くぅ…っ!」

横に回転して衝突のダメージを流したフレディオは、フェンスにぶつかる前に姿勢を直し
タックルに転じてきた。
直球な戦法だ。まだ青いが勢いがある。
踏み込みながら、右肩が大きく傾く。サウスポーだ。
キャシイもその独特の動きを見逃さなかったようで
腕をクロスして一撃をくらった後、意識して同じ構えをとる。
フレディオは、キャシイも左利きだと勘違いしたようで、悪戯っぽく瞳を輝かせた。

スナイロユンクの跳躍力は非常に優れているため、
そのアドバンテージを生かした戦法を持つ選手が多い。
フレディオの場合、俊敏さにかけては圧倒的優位に立てる種族の特性に加え
特攻型の性格がマッチして大きな武器となっているようだった。

ならば。
軽く跳んだフレディオを、キャシイは地面からねめつける。
地面から離れられないのがパキケの弱みなら、滞空時間の長さがスナイロユンクの弱みだ。
フレディオが脚を振り下ろすより先に、右拳が腿を強く打つ。
落下の軌道が針金が折れたように曲がり、フレディオはグラウンド上でもんどり打った。

「もう終わりかしらん?ウサギちゃん。」

「じょーだん!やっと楽しくなってきたとこでしょお?」

フレディオは不敵に笑ったが、目は忙しなくキャシィの様子を観察している。
右手でくるか、左手でくるか、判断しかねているらしい。
キャシィのほうも同じような目をしていることだろう。
タックルを受けたときに、腕をクロスしてしまったのがいけなかった。
ガードを硬くしようとしたつもりだったのだが、思った以上に彼女は威力があって
両腕に痛みがじぃんと響いてくる。

「キミの実力、そんなもんじゃないのは解ってるんだからネ…」

ぱん、とショートパンツの埃を払うと、フレディオは/fireを唱えた。
小さな手が、ぼうっと炎に包まれる。

「魔法使ってくれないなら、こっちから行くよ!」

火が線状にほとばしり、一直線に襲い掛かってきた。
上体を反らして避けようとするキャシィだが、
フレディオが手首を曲げると、火は曲線を描いてキャシィの横腹を直撃する。
通常技の/fireをここまで高温に作り、器用に扱うとは
炎技に特化した訓練を受けたリヴリーらしい。
普通ならここで/rainを使えば無効化できる。
だがキャシィはそうはせず、地面に倒れこみ
土煙でドレスに燃え移った炎を消した。

キャシィは魔法を使わないのではない。本当に、使えないのだ。