ギュニア杯:開会式
会話が終わったのを見計らったように、ファンファーレが響いた。
高らかなラッパの音がざわめきを消していく。
「こーんにーちはー!」
続いてマイクでかなり拡大された女性の声が――NHKホールばりに鳴り響く。
発信源は会場中央の一段高い部分に
今、ひらりと舞い降りたばかりの、クリーム色のネタツザルらしい。
豊かに長い金髪をなびかせ、舞台用にしつらえたらしいドレスといい
どこのアイドルかと見紛うばかりだが、
よく見ると顔には縦横無尽に切り傷が走っている。
手を振りながら現れた彼女だったが
しんとした会場に気づくと耳に手を当ててみせ、
「あれあれ?声が小さいかなー?
もういっかい元気にいってみよー。こーんにーちはーっ!」
こんどは困惑気味に復唱する声がちらほらとあった。
これではまるで、武道大会ではなく
幼稚園のイベントか何かに紛れ込んでしまったようだ。
選手たちに何回か「こんにちは」を叫ばせた後、やっと気に入った声量に達したようで、
ネタツザルはピコリと上半身を傾げた。
「はぁいこんにちはぁ!ようこそギュニア杯予選会場へ!
西会場はこの私、樹樹と、審判はフランツさんが担当します☆」
名を呼ばれると、樹樹の右手にひっそりと立っていたメデネの老人が帽子をつまみあげてみせた。
樹樹と並ぶと子供のように見えるが、貫禄のある、初老の男性だ。
分厚いメガネに瞳が拡大されて、遠くからでもキラキラ光って見える。
「さぁ〜今日もげんきにはじめてみよーねぇー!
みんなーっ!今日の対戦表は、もらったかなぁ〜?」
樹樹が腕を上げたので、選手達もぞろぞろと対戦表を掲げてみせた。
赤と青、紙の色は二種類あるようだ。
名前と部屋番号の書かれている下にある時間割のような表が対戦の標だ。
1戦しかない初日を除いては午前と午後の部に分かれており、
時間と相手の選手名が書かれている。
「はぁい、よくできました!
試合は午前、午後の部にそれぞれ一度ずつ。
自分の時間になったら、赤い紙のおともだちは赤コーナーに、
青い紙のおともだちは青コーナーに集まるコト。
時間厳守だから気をつけて。
とぉってもやむをえない事情で遅れちゃったりしたら、
どうなるか!わかってるよねーっ!」
なんだか不戦敗以上の結果が待っていそうな間が、しーんと会場に流れる。
樹樹は何故か満足した様子で、指をぴっと立ててみせる。
「試合中に相手が戦闘不能になるか、『降参』を認めさせたらキミの勝ち!
知ってるとおもうけど、これは予選だから、
おともだちを殺しちゃうのはダメだよー。ブッブー。
フィールド上で誰かの死亡が確認された場合、
その相手は出場資格を失っちゃいますからねぇーっ!」
樹樹が人差し指でぐるっと180度を指す。
アクションがいちいち大げさで、擬音がつかないのがおかしいくらいだ。
「明日の対戦表は、全部の試合が終わったあとで
各自の部屋のポストに投函されるから、いい子で待ってるコト!
だいじなお願いがい〜っぱい書いてあるから、裏もよく読んでおいてネ☆
おねえさんとのヤクソクだぞ!!」
明るい中に妙な威圧感を感じさせる物言いに、会場の温度が1℃ほど下がった。
「さぁて、前置きもここまで!これから早速午前の部のはじまりはじまり〜
9:50から第一回戦だから、しっかりチェックしてね!
並みいる強豪を抑え、本戦へのキップを手にするのはだれかーっ!Now Here we go!」
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