14. 計画前日

page: 01. 02. 「……ふ、」

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チューヅさんへ
明日、私用により行けなくなりましたので。
RYLA
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ぶっきらぼうな紙ヒコーキが、チューヅの怒りを買ったのは言うまでも無い。


「ざっけんなあああ!」

デジタルで織り上げられた薄い紙を、チューヅは真っ二つに引き裂いた。それだけに飽き足らず地面に叩きつけ、だんだん足底で踏みにじる。

「来られなくなっただと!?前日って何だよ!今になって何だよ!
 どんな!用事があったら!GLL城特攻をキャンセルできるっていうんだよ!
 どーせ、食い物関係なんだろうがああああっ!」

理由も言わず、謝罪もなしに、しかも前日の正午である。
20字足らずの一言で1年ごしの計画をあっさりフイにしようというのだから、短気な彼でなくたって怒り狂うのは当然だろう。いつもなら無言で行方をくらますリラだから、連絡があっただけでも驚きなのだが、それはあくまで彼女の常識が著しくズレている(もしくは世間一般に対する嫌がらせ)からで、決して褒められるべきことではないのである。マスクの上からでもわかるくらい真っ赤になるチューヅを「まぁまぁ」とえんまが抱え上げ、足の下にあった便箋にはドルテが興味津津、手を伸ばす。

「あー、腹立つぜぇ!姉御が野良リヴリーでさえなけりゃあ
今すぐにでも島にぶん殴りに行ってやるんだけどよぉ……
おい、ハゲ!何だアレだ情報屋でも当たって、姉御の居場所突き止めらんねーか!?」

じたばたと空を蹴った後でチューヅがジャスタスを振り向けば、
計画が狂ったと言うのに、彼は少しも慌てた素振りを見せていなかった。
腕組みをしてビギナーズスツール上のお茶を一口含み、

「……僕はハゲじゃないし、カンボ君ごときにそこまでしてやる必要もない。
 思い出しても見ろ。 彼女の役割はなんだ?
ロボットに乗り込んで、周りの注意を逸らすことだけだけだろ。
 さほど重要なポジションでもあるまい。僕が代わればいいことだ。
 もともと、彼女が消えることは想定内だったし」

まるで厄介払いが出来たとでもいわんばかりの態度である。

「て、てめぇ!仮にも仲間に向かってなんてことを」

「悪いが、彼女の人格を僕は一切信用していないんでね」

再び頭に血を昇らせるチューヅ。ようやく落ちついたと言うのに元の黙阿弥だ。えんまがいくらおろおろしてもジャスタスは煽るのを止めないし、襟首を掴んで引き寄せられても嘲り笑いを引っ込めないので緊張は高まるばかりだ。そこへ、破けた便箋とにらめっこしていたドルテの声が響いた。

「Hey、これホントにリラからのmailカ?」

「うるせぇ蜘蛛女は黙ってろ!」チューヅの反応は手厳しい。これには彼女を馬鹿にされたジャスタスも「おい、口が過ぎるぞ」と、憤慨する。一触即発。

「ドルテちゃんは、いったいどうしてそんな風におもうんだい?」

落ちついているのはえんまだけだった。睨みあう2匹が衝突しないようさりげなく腕で制しながら問うと、ドルテはまっぷたつの紙をつなぎあわせ、ぴらりと返してみせる。薄汚れた紙に記されたシンプルな文面が、もう一度注目を浴びる。

「ダテ、ホラ!いつもアイツはfacemark使うダゾ?」

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明日、私用により行けなくなりましたので(ToT)ゞ
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「そういえば、このくらいの顔文字はいつも、くっついているよね」

硬派な性格から想像もつかないことだが、リラは顔文字を多用する。
初見なら驚く(もしくはドン引き)だろうが、付き合いの長い相手なら誰でも知っていることだ。普段の印象と余りにマッチしていたので見過ごしてしまっていたが、そういえばドルテが指摘するように、書き文字でのリラが、こんなにそっけないはずはない。
もう喧嘩はぴたりと止み、3匹ともその違和感のある紙面を黙って凝視していた。

「やっぱ蜘蛛女の思いすごしじゃねーの?」

リヴリー至上主義者のチューヅは一蹴したが、便箋の片割れを取り上げた手つきは、さっきほど乱暴ではなかった。彼は、意見者がモンスターなのが気に食わないだけなのだ。
ぷうっと頬を膨らますドルテ。

「アタシ蜘蛛女チガウ!ドルテチャンて呼ベっ」

「うるっせーだぁーれがドルテチャンなんて呼べっか、こっぱずかしい!
蜘蛛女は蜘蛛女だろーが馬鹿蜘蛛女!」

「ストップ!」

喧嘩につぐ喧嘩で、今度はドルテとチューヅが取っ組み合おうとしたところ、ジャスタスが叫んだ。蜘蛛女がゲシュタルト崩壊しそうだからではない。彼はすごい勢いでチューヅの手から便箋を奪い取る。手紙の前半部分だ。途中で文章は途切れている。彼はすぐに顔を上げ

「チューヅ、お前いつも彼女になんて呼ばれていた?」

「決まってんだろ。アイツ、いちいち名前なんか覚えてねーっつってよ
何年経っても『ハナアルキさん』て、そっけねぇ……あ!?」

チューヅさんへ
明日、私用により行
RYLA

「『チューヅさん』……だって……」

「……これ、本当に姉御が書いたヒコーキなのか?」

「So,サッキからドルテチャンがそう言てるデショ」

珍しく届いた連絡。
いつもと違う文面。
不自然な宛名。
奇妙な違和感がその手紙を包んでいる。チューヅが紙に鼻を近づけてみると、古い料理油と野良独特の饐えた羽の臭いがほんのり染みついている。
この手紙が彼女の手によるものなのは確かだ。
そうだとすれば、何故。

4匹は怪訝な表情で、顔を見合わせた。